卓話時間
第1523例会
2011年12月05日 (月曜日)
- タイトル :
- 「ベートーベンへの旅」
- 卓話者 :
- 広島交響楽団事務局長代行 井形健児 氏
ベートーヴェンへの旅
広島交響楽団 事務局長代行 井形健児
簡単なごあいさつの後、皆さんで、第九のワンフレーズを2部に分けて発声練習を行いました。
その後、まず以下曲目のそれぞれ出だし部分をCDでお聞きいただく事に・・
♪チャイコフスキー:ピアノ協奏曲(冒頭)
♪サラサーテ:チゴイネルワイゼン(冒頭)
♪ブラームス:交響曲第4番(冒頭)
♪ドヴォルザーク:交響曲第9番「新世界」(冒頭)
♪サンサーン:交響曲第3番「オルガン付き」(第2部冒頭)
♪R.シュトラウス:「ティルオイレンシュピーゲルの愉快な悪戯」(冒頭)
♪マーラー:交響曲第5番(冒頭)
♪ベートーヴェン:交響曲第5番「運命」(冒頭)
以上、すべて最後に聴いた「運命」の冒頭の有名なテーマと係わりがあるのです。
実は「運命」の出だしの「ジャ ジャ ジャ ジャーン」は、最初休符(無音)が含まれていて、実際には「ン・ジャ ジャ ジャ ジャーン」となっている。
では、なぜベートーヴェンはわざわざ休符を入れて、そのようにしたのでしょうか?
まず、最初に休符を入れる事で、そこに一種の緊張感が生まれ、50人以上のオーケストラの「合わせよう」とするための集中力が高まり、一気にそのエネルギーが放出されて、初めてあの有名な「ジャ ジャ ジャ ジャーン」となる訳です。さらにそれを指揮する指揮者にとっても、毎回緊張の瞬間となっているのも事実です。(振り下ろした瞬間、そこに音が無い訳ですから。)
では先程お聴きいただきました、曲を検証してみましょう。
(全部曲の出だしが休符から始まっている事を確認)
そして、ベートーヴェンは、この「ジャ ジャ ジャ ジャーン」だけで、交響曲1曲を書いてしまった。もっと言うと、この第1楽章はこの「ジャ ジャ ジャ ジャーン」だけで構成されているといっても過言ではありません。
そこで、冒頭から約20秒の間で、この「ジャ ジャ ジャ ジャーン」が何回出てくるか、数えてみてください。
♪ベートーヴェン:交響曲第5番「運命」(冒頭)
おわかりですか?そう、たった20秒で14回も、このテーマが登場する、というより、「ジャ ジャ ジャ ジャーン」以外のテーマはいっさい使われていません。
このようにベートーヴェンは交響曲の分野に、当時としては革新的な事を持込み、発展させた作曲家だったのです。フルートの半分の大きさの楽器、ピッコロや、金管楽器のトロンボーンが、交響曲に初めて登場したのも、この「運命交響曲」が世界初の試みとなった訳です。
ベートーヴェンのもうひとつ特徴的な交響曲が交響曲第7番です。
ドラマ「のだめカンタービレ」のテーマ曲にもなり、ご存知の方も多いと思います。お聴きください。
♪ベートーヴェン:交響曲第7番(第1楽章第1主題部分)
この「タン タタン」というリズム主題、これもこの交響曲の中でしつこく登場します。ベートーヴェンはひとつのテーマを繰り返し登場させる事で、初めてその曲を聴いた人の耳にずっと残るように考えたのではないでしょうか。
私個人の見解として、ベートーヴェンはそれら作曲における初の試みや仕掛けを明らかに狙って書いたとしか思えません。実際ベートヴェンの自筆譜は書き直しや訂正、消した後、とにかくあーでもない、こーでもない、というのが見て取れます。これは一人の人間が苦悩の末に創り上げた曲であって、神が創ったものではないのです。もっと言えばベートーヴェンは非常にせっかちで、優柔不断、くわえてしつこい性格だったに違いありません。
この第7番から強い影響をうけたと思われる曲が・・
♪チャイコフスキー:交響曲第4番(第1楽章冒頭)
出だしは「運命」の主題、途中から第7番と同じ「タン タタン」の主題を使って作曲している事がお分かりだと思います。チャイコフスキーの素晴らしいところはこの「タン タタン」の拍子を実際には裏返しで使っている所です。(これを文章では表現するのは難しい・・)
そしてもう1曲、シューベルト作曲交響曲第8番(旧9番)「ザ・グレート」終楽章。この曲には、第九のあの有名なテーマがそのまま登場します。
誤解されるといけないのですが、これらは決して「パクリ」ではなく、皆ベートーヴェンを偉大な作曲家と認め、尊敬し、崇拝していた証なのです。
というところで、時間となりました。
最後にもう一度最初に練習した「第九」のテーマを2部合唱で締めくくりましょう。
いよいよ第九の季節となりました。皆様よいお年をお迎えください。
ありがとうございました。