卓話時間
第1522例会
2011年11月28日 (月曜日)
- タイトル :
- 認知症を知って社会ができること
~共に健やかな日々のために~
- 卓話者 :
- 独立行政法人国立病院機構 広島西医療センター
臨床研究部長、認知機能疾患科医長 片山禎夫氏
相手が、快と感じているのか不快と感じているのかを感じる能力を磨くこと
認知症の人のケアの基本(片山)
1) 脳機能障害 程度 拡がりと強さ
(健忘+失見当識+失認+失行+失語+考え込み+配分障害)
2)がんばる気持ち どこに、程度
3)支援に対する気持ち 嬉しい、嫌だ,程度
4)情動記憶 快、不快、程度
5)自信と誇り、生活習慣
今、何ができにくいのか、解りにくいのか、すなわち、何がストレスと感じているのかを知って、お互いに共に楽しむこと。
将来、どのようなことが出来にくくなるのかを知って、早くから、楽しく行うこと。
基本は、共に楽しく、笑顔がでるように。
失敗を、注意しないで!指摘しないで!教えないで!
一緒に,楽しんで下さい。
病気だと出来ない事を見て,悲しまないで下さい。一緒に笑って下さい。
家族の心を支えて下さい。
病気を忘れさせて下さい。自信と誇りを取り戻させて下さい。
皆様の笑顔で、元気が出ます。
医療の立場:
1を見て、十を知る:今の病状から今困っていることを予測する
将来、生じる病状を予測する(病気を知る)
検査のプランを考え、
日常生活のストレスを軽減させ
支援体制を考える
生活環境によって、ストレスが変化する:環境に応じた適切な対応
*環境に応じた薬:減量など適切に指示する
家族の負担感を見て。
福祉との連携をとる:環境の変化で、薬も変化
行動学習療法は、楽しく、注意を向けて
1.認知症(いくつかの症候の複合状態)の理解
1.記憶の種類
陳述記憶(顕在性記憶) declarative memory
意味記憶(知的記憶) semantic memory 整理された記憶 繰り返し
出来事記憶(生活記憶)episodic memory 印象の強い物ほど保存が強固
情動記憶
非陳述記憶(潜在性記憶)
手続き記憶(技能記憶)procedural memory 身体記憶 車の運転など
呼び水効果(餌まき効果)priming
*情動や注意力の参加の程度
神経症候学 第2版 II記憶障害より抜粋
2.認知症に罹患してからの記憶、注意力、情動の変化
情動記憶:比較的高度になっても保たれている
繰り返して強固になる記憶 生活に即した意味記憶
注意力:
注意を阻害する要因:情動の変化
目的とする生活、行動からそがれてしまうと生活が成り立たない
情動の変化:内的な変化と外的な影響
記憶障害、失見当識、失認、失行、失語
進行する過程で、忘れること、解らなくなること、出来なくなることで悩み、注意がそがれやすくなる(負の内的変化)。
進行する過程で、悩んでいる、忘れる、解らなくなる、出来なくなることで、周囲の人が病気の進行による変化を知らなければ、指導、激励してしまい、また、周囲の人まで悩んでしまい、負の外的影響を与えてしまう。
3.中核症状
1)病的な物忘れ
病的な物忘れの段階で、人間関係が崩れ,自信と誇りが喪失している
地域崩壊の起爆病
財布が無いとドキドキする感じ。財布が無い事で、探した事,周囲の人に不信を述べた事、怒った事は忘れるが、ドキドキして,不快な、不安な感情は記憶される。
家族にしっかりしろと注意される、心細さ
友人からどうして約束の時間に来なかったのか、非難されるが、約束そのものを憶えていない。不信感と不安感が繰り返してしっかりと記憶され、友達と感じなくなる。
孤独感、不安感が蓄積される。
そして,認知症へと進行する。
楽しくない日々の,繰り返し。
○ 外出が嫌に、付き合いが嫌に、買い物が嫌になり,孤独になります
不安ばかりが、繰り返されてしまうと、多くの事がおっくうになります。
自信と誇りを失いそうになります。
○ 感情を伴ったことは,憶えやすい。具体的な事象は,すっかり忘れるが、その時の感情を憶える。
○ 自信と誇りを喪失する過程で、がんばろうと粗相のないように、迷惑にならないように、努力してしまう。
○ すこしづつ認知症の症状が完成されます(進行する認知症の場合)
最初は、時々です。そのうち,いつもになります。間違えると,誰からも感謝されない、孤独な、楽しくない人生となってしまいます。そして、認知症へといつの間にか、進行してしまいます。
多くは、病的もの忘れに加えて
混乱すると、不安になると、悩むと症状がひどくなります
最初は、ふと、時々、からいつもへと程ばかりでなく頻度も増えます
2)失見当識
認知症になるともの忘れに加えて、日付が解りにくくなる
認知症になると、病気をすると:皆さんに迷惑をかけたくない。
人と会うのがおっくう
さっき話したことを忘れる:思い出す喜び
人と会いたくない人が、思い出して喜ぶ?
自信と誇りも無くなっている
一緒にいることを嬉しいと伝える
褒める、素敵ねと。
同じことを言っても気にしない。
病気を気にしない。
一緒に、昔話に花を咲かせる
友達しか出来ない話
兄弟しか出来ない話
子供しか出来ない話
配偶者しか出来ない話
楽しむ心を伝える
回想法 日付が解りにくいとき:
忘れていることも大切:楽しくお話しする
季節感のある風景、写真、お話し、
季節を楽しむ会話
朝、昼、晩を楽しむ会話、生活、おやつの時間、体操の時間
規則正しい生活
カレンダーや時計を見せて、正すことは避けて下さい。
ストレスを避ける
3)相貌失認
人の顔が解りにくくなる
家族と家の中ですれ違っても誰か解らない
イメージだけ感じて、家の中にドロボーがいると思ったりする
4)失認
物の名前と、物が一致しない
新聞取ってといわれても、ひげ剃りを持ってくる
解らないとストレス
違うでしょと嫌な科をされると、もっとストレスで、悩んでしまう。
5)判断力低下
ストレス軽減
物が多いと、解らなくなる 少しずつ整理を
食器、電話の周り、服、布団、座布団
言葉を少なくする
判断する楽しみへ
服を選ぶ喜び
おいしい料理を、おいしいと
臭いを楽しむ
色を楽しむ心
光が変化することを楽しむ:夕方こそ、楽しい会話、作業を
3時から6時が大切
目覚めの時こそ、声かけ、着替えの喜びを
お化粧の喜び、パーマの喜び
6)失行
服を着るのが、困難なときこそ
手伝ってあげる は、ストレスです。
一緒に笑いながら楽しむ
料理をすることを楽しむ
買い物を楽しむ
一緒に手を取って、手を振って歩く仲間作りが大切
友人、兄弟、子供、配偶者:色々な人と笑いながら
7)失語
言葉がわかりにくいときこそ
狸寝入りではないのです:笑顔で、一緒にお茶を飲むだけで
言葉で話しかけるとストレスなこともあることを知っておいて下さい
8)考え込み:レビー小体型認知症では早期に生じやすい
尋ねられると考えてしまう
命令されると考え込んでしまう
考えると、忘れる、解らなくなる、出来なくなる、足が重くなる、
眠れなくなる、便秘になる、幻覚が見える
楽しく無くなる
9)配分障害(別名、制御障害) : 前頭側頭葉型認知症に出現しやすい
場所、時間、人間関係など適切に行うことが出来にくくなる
別名、制御障害
がんばろうとすると、できる事のみを行ってしまう(常同行為)
重要ポイント
* 進行することを知っておく
* 症状の拡がり、程度を理解する
* 病状を把握するときに、その事を、患者さんがどのように感じているのかが重要
* その点を、ケアする時に、どのような心の動きが出るのかが重要
* 家族が、そのような状況を見たときに、どのように感じているのかが重要
* これらの心の動きは、人によって異なります。
* これらの心は、蓄積されていきます。
* その人の、生きて経験したこと、感じてきたことが大きく影響されます。