卓話時間
第1512例会
2011年09月05日 (月曜日)
- タイトル :
- 「東日本大震災の金融経済情勢と地方経済への影響」
- 卓話者 :
- 日本銀行広島支店支店長 米谷達哉 様(広島RC所属)
1. 日本経済の現状
わが国の経済は、東日本大震災による供給面の制約が和らぐ中で、着実に持ち直してきている。震災後に大きく落ち込んだ生産は、サプライチェーンの修復を背景に、概ね震災前と同レベルに復しており、これを受け、輸出も下げ止まっている(図表1)。
また、設備投資は、被災した設備の修復もあって、総じて持ち直しており、個人消費も、一部に地デジ移行前の駆け込み需要の反動などが見られるものの、全体としては持ち直してきている。
こうした経済の持ち直しの背景には、震災で落ち込んだ企業マインドが好転してきることが挙げられる。マインドを表したDIは、大企業、中小企業とも、震災前のレベルまで戻ってきている(図表2、3)。まさに、病と同じで、「景気も気から」の側面が大きい。
2. 先行きの見通し
先行きについては、わが国経済は、世界経済が、新興国に牽引される形で、堅調な動きを続けるとみられることや、今後、震災の復興需要が期待できることから、引続き、回復経路を辿っていくとみられる。日本銀行の金融政策決定会合における、政策委員の見通しの中央値(図表4)は、2011年度については震災による落ち込みによる
発射台の低さから0.4%と低くなっているが、年度後半からの回復によって、2012年度には2.9%まで上昇すると予測している。しかし、こうした標準シナリオから景気が下振れするリスクも、最近、高まってきていることは要注意である。その1つが、①米欧を中心とした海外経済の減速懸念である。米国における債務上限引上げ時の混乱や米国債の格下げは米国経済のマインド面に悪影響を及ぼしている(図表5、6)。また、欧州においても、ギリシャをはじめとする債務危機問題が未だ解決しておらず、これら多額の債務を抱える国の国債金利は高止まりしており、こちらも、欧州経済のマインド面の足を引っ張っている(図表7、8)。②こうした中、為替市場では、米ドル、ユーロが売られ、円高が続いている(図表9)。さらには、③国内では、震災の後遺症ともいえる電力需給の問題が、原発の稼働時期と絡めて、この冬場以降、再び供給制約要因となる可能性も残っている。
このように、日本経済は震災の影響からは脱して、持ち直してきており、今後も、回復を続ける見通しであるが、下振れリスクには十分注意していく必要がある。今後、日本経済がしっかりした回復過程を辿るためには、企業や消費者のマインドが崩れないよう、政策面でもサポートしていくのが重要と考えられる。