卓話時間
第1332例会
2007年05月07日 (月曜日)
- タイトル :
- 新会員卓話
「献血と輸血について」
― 献血の現状と輸血の安全性・危険性―
- 卓話者 :
- 田中一誠君 広島県赤十字血液センター所長
本邦の血液事業は、日本赤十字社が担っている。戦後、私立の血液銀行での「売血」による輸血用血液が主体をなし、「黄色の血液」と呼ばれ、輸血後肝炎が50%以上に頻発し、輸血用血液の質は極めて劣悪であった。昭和39年、東京オリンピックの年に、政府は、国民の「献血」による輸血用血液の確保を閣議決定し、昭和44年頃には「売血」は消滅し、100%が「献血」による輸血用血液となった。平成15年には、「安全な血液製剤の安定供給の確保に関する法律」(血液新法)が施行され、全ての血液製剤を、国内献血による国内自給で安定的に賄うことが意図とされた。
本邦の献血による血液は、日赤の各血液センターで採血され、一つは、各血液センターにおいて、輸血用血液として、赤血球濃厚液(400ml、200ml)、血小板濃厚液、新鮮凍結血漿の3者に製剤化される。他方では、血漿分画製剤(アルブミン、免疫グロブリン、凝固因子製剤等)の原料として製薬会社や日赤へ提供される。
毎年の献血者数は、平成3年のピーク時から減少の一途を辿り、広島県においても、5年前の年間16万人から昨年度は13万人へと、実に3万人もの減少となり、いずれも10代・20代の若者の献血離れが特徴的である。また、多くの若い女性献血者においては、貧血気味のため献血不合格になっており、彼女達の日常の食生活における鉄分の不足が懸念される。
広島県内の輸血用血液の需要は、ここ5年間くらい横ばいであるが、200ml由来の赤血球製剤の需要が激減し、400ml由来の赤血球製剤の需要が伸び、血小板の高い需要が特徴的であり、この傾向に対応して献血して頂いているのが現状である。広島県赤十字血液センターの献血基本方針は、需要・供給・在庫状況から判断して、「必要な時に、必要なだけ献血して戴く」ことであり、貴重な献血を期限切れで処分することは許されず、過不足のない採血が原則である。
献血により提供された血液は、梅毒、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、エイズウイルス、成人T細胞白血病ウイルス、りんご病ウイルスについて、検査を受け、陽性のものは全て排除される。世界的にも最高水準の検査法を採用しており、血液の安全性確保に努めている。更に、輸血用血液の安全対策として、「輸血前放射線照射」「保存前白血球除去」「NAT検査精度の向上」等を行っている。以上のことにより、日本の輸血用血液の安全性は、高く保持されている。
しかし、輸血によって副作用は起きることがある。これらの副作用情報を収集するシステムを、平成5年、日赤血液事業本部が医療機関の協力を頂いて立ち上げ、多くの詳細なデータが収集・蓄積できるようになった。
日本で1996~2004年の間 に起こった輸血に関連した重篤な障害2628例 の中で、最も多かったのは、なんと、ABO不適合輸血で、実に70%を占めた。これは、極めてショッキングな事実で、医療過誤によるものであるが、やはりヒューマンエラーは最も怖い。輸血を受ける患者になった場合には、自分に輸血される血液型を確認する等、自己防衛することが必要である。
輸血の副作用としては、“非溶血性副作用”が、ほぼ80%以上を占め、最も多い。これには、発熱・蕁麻疹等の軽症から、アナフィラキシーショック、呼吸困難、TRALI(輸血関連急性肺障害)などの重症例まで含まれる。これらの約70%は、輸血開始後1時間以内に起こり、輸血開始~輸血後の看護師・医師等による観察は極めて重要である。患者の立場からも、自分自身の異常に気付いた時には、そのことを医療スタッフに早く申し出るなど、十分な注意が必要である。
ウイルス感染では、感染初期には、抗原や抗体がスクリーニング検査の検出域に達していない時期があって、感染しているのに検査を行っても陽性に出ない時期があり、これを「ウインドウ期」と呼ぶ。現時点では、高感度の検査を潜り抜けて陰性となることがあり、輸血用血液等として、患者に感染してしまうケースもある。その可能性を推測してみると、B型肝炎を発症する頻度は年間20人程度、C型肝炎では4年間に一人くらい、エイズでは2年に一人くらいとされている。検査法の改善により、現在ではこのデータより発生頻度は低いとされているが、0ではない。
以上、輸血療法は、臨床的に必要であるから行われるのであるが、製剤的に安全性を高めても100%に副作用等を回避できない、また、ヒューマンエラーによる不適合輸血などの医療過誤を生じる可能性も有り、受ける側としても、十分注意することが肝要である。
一方、「献血」は、国の“血液製剤の国内自給”を目指すところの根幹であり、国民の深い理解と協力が必要です。毎年、多くの生命が、献血により救命されています。献血は、国民の一つの義務と位置づけていただき、ご協力をお願いします。