卓話時間
第1226例会
2004年11月15日 (月曜日)
- タイトル :
- 医療に関する2~3のお話(医療の質の確保について)
- 卓話者 :
- 平松整形外科病院 平松 恵一君
さて、日本の医療はこれまで厚生行政の主導により行われ、すべての国民に平等な医療を受ける機会を保障することを目的として、主として量的な観点から施策が行われてきました。近年、アメリカの医療提供体制と比較し、医療の質が注目されるに至り、昭和60年第1次医療法改正より始まり、平成12年の第4次医療法改正では、病床区分の見直し、医師の臨床研修の必修化、広告規制の緩和等が図られました。
平成15年4月には厚労省により、「医療提供体制の改革のビジョン案」が示されましたが、これは患者本位の医療を確立することを基本としたもので、1.患者の視点の尊重、2.質が高く効率的な医療の提供、3.医療の基盤整備の3つの視点にそって改革を進めてゆくものです。
一方、小泉内閣は「聖域なき構造改革」をかかげ、財政主導による医療費の抑制政策を進め、その諮問機関である総合規制会各会議や経済財政諮問会議は市場原理の導入、情報の開示、保険者機能の強化等を主張し、又、規制改革・民間開放会議は混合診療の解禁を主張するなど医療制度の抜本改革を行わんとしています。
しかし、病院への株式会社の参入を始めとする市場原理の導入や混合診療(保険診療と保険外診療(自由診療)を併用する)の解禁は、これらの会議を主導する企業が病院経営や民間保険業務に参画するための施策以外の何物でもなく、格調高い厚労省の「医療制度改革のビジョン案」と一致するものではありません。
さて、国民の健康度としての日本の医療はWHO(世界保健機構)によると、世界第1位であり、アメリカは37位です。日本は国民皆医療制度により、国民の「誰もが」「いつでも」「どこでも」平等に医療を受けることが出来、しかも医療費は大変安価で、アメリカの1/2~1/6と言われています。
日本の国民医療費は年間約30兆円(平成15年)ですが、対GDP(国内総生産)比では世界で19位(平成8年)です。平成15年度の日本の一般会計は82兆円、特別会計は320兆円で、約30兆円の国民医療費の内訳は国庫負担はわずか約8兆円にで、他は患者さんの保険料・一部負担金・事業主負担によるものです。
一方、アメリカの医療保険の大半は民間医療保険(MCO)ですが、民間保険会社の治療への介入により、患者は適切な医療を適切に受けられないことが多く、約4000万人の無保険者の存在とともにアメリカでは大きな社会問題となっています。
一方、日本の医療サービスの低さがよく指摘されていますが、それは医療費の単価が低く抑えられ病院の収入が少ないことが原因です。又、イギリスは登録医制度で医療費は全額国庫負担ですが、登録医以外の診療は自費となり専門医の診察や入院は数ヶ月待ちの状態です。日本の医療制度は患者さんにとっては素晴らしいシステムといえますが、医療費抑制政策による限られた財源を考えるとその前途は決して明るいものではありません。
しかしながら日本の病院は質の向上に向けて、大変な努力をしています。とりわけ第3者による医療の質の評価として、平成7年に「日本医療機能評価機構」が発足しました。現在は577項目をチェックし、合否を決めていますが、現在の認定病院数は1427病院(全病院は9300)です。私の病院も1000番目の病院として平成15年に認定されました。
ここで医療の質について考えてみましょう。医療の質の3要素としては、1.構造(施設、組織、人)、2.過程(診断、治療、リハビリ、患者や家族への対応)、3.結果(治癒率、満足度)があり、質の高い医療とはこれらの三要素の評価が十分であること、そして質の高い医療とは「良く治る医療」といえます。このような質の高い医療の実現には、更に患者さんへの情報開示やインフォームドコンセント(説明と同意)、ピア・レビュー(同輩監視)、セカンドオピニオン(他の医師の意見を求める)、治療結果の評価、リスクマネジメント(危機管理体制)の充実、更に我々医師の自浄作用活性化等の様々の努力が必要です。
しかしながら、平成14年、16年と小泉内閣は医療費のマイナス改定を行い、私たち病医院の経営基盤に多大な影響を与えました。一方で医療の質の向上を求めながら、その一方で医療費を抑制するという相矛盾する施策、300兆円を越す国家予算の中で、医療に対する国庫負担がわずか8兆円とは如何なものでしょうか。
医療の質の確保にはそれなりの財源が必要で、日本の病医院は極めて苦しい財政状態のもとで国民医療のため最大の努力をしていることを理解していただきたいと思います。