卓話時間
第1484例会
2011年01月24日 (月曜日)
- タイトル :
- ゲスト卓話
「広島市の交通施策」と「マイカー乗るまぁデー」の取組について
- 卓話者 :
- 広島市道路交通局都市交通部長 立岩 薫氏
本市では、将来の交通ビジョンと、そのビジョンの実現に向けて、今後、概ね10年間の道路や公共交通に関する施策のプログラムを取りまとめた「広島市総合交通戦略」を昨年7月に策定しました。交通政策の理念として、『ひと・環境にやさしく、活力ある広島の交通体系づくりをめざして』を掲げ、具体的には、自動車に過度に依存するのではなく、「交通体系の軸足をより公共交通へシフト」することにより、自動車交通と公共交通のバランスのとれた交通体系を目指すというものです。
全国的にみても、交通渋滞の解消や環境問題への対応などの観点から、公共交通ヘのシフ政策とともに、方法論としての交通需要マネジメント、すなわち、道路や公共交通施設の供給一辺倒ではなく、交通需要管理施策を積極的に活用するという交通政策が近年のトレンドであるといえます。
また、自転車が環境にやさしく、身体にやさしく、さらに財布にもやさしいというメリットがあることから、近年、利用が増えている中で、自転車に関する交通政策が大きなテーマになってきています。
さらに、一昨年に民主党政権が誕生してから、移動権の保障という基本理念を柱とした交通基本法の制定に向けた検討がなされています。移動権というのは、すべての国民が健康で文化的な最低限度の生活を営むために、移動する権利が保障されるという考え方です。今後は、高齢の単身世帯、あるいは夫婦2人世帯が増加することにより、郊外の団地などでは公共交通もマイカーも利用できないなど、移動に制約を受ける方の増加が見込まれ、こうした移動の確保という問題は、一層深刻化することが予想されることから、地域生活交通の維持という問題も交通政策の大きなテーマとなりつつあります。
次に、本市の交通の現状について説明します。
まず、鉄軌道の公共交通機関についてですが、本市の鉄軌道については、JR、宮島線、アストラムラインが郊外の交通を、路面電車が市内の交通を受け持っています。次に、本市の交通機関別の乗車人員ですが、1994年度をピークに減少の一途を辿り、2002年度には約55万人にまで減少しましたが、近年は微増傾向にあり、2008年度の1日あたり乗車人員は約57万人となっています。
次に、道路については、現在、東広島バイパス、可部バイパスなどの国道整備や、都市高速道路の整備が行われています。都市高速道路については、昨年4月に高速2号線全線と、高速3号線の一部が供用するなど、ネットワークが完成されつつあります。
また、本市は、一点集中型の都市構造になっていることから、古くから、デルタ市街地の流入部において朝夕のピーク時を中心に渋滞が発生するという特徴があります。
次に、本市において実施中あるいは検討中の主な交通施策について説明します。
まず、公共交通についてですが、人口減少社会への対応などから、拡散型の都市構造から集約型の都市構造への転換が求められており、そのためには、都心の魅力とにぎわいを高め、活性化することが重要な都市政策課題となっています。こうしたことから、総合交通戦略においても、「行きよい都心づくりのための交通環境の整備」を掲げ、郊外から交通結節点を経由し、都心までの間のアクセス機能の強化とともに、交通結節点の整備・改善に取り組んでいます。
それでは、公共交通に関する具体的な施策について、ご説明します。
1つ目は、白島新駅です。白島新駅は、JR山陽本線とアストラムラインが交差する部分に、それぞれJRとアストラムラインの新駅を整備し、連絡するものです。JRとの結節駅を設置する構想は、平成6年開業のアストラムラインを整備する際にもありましたが、既存交通への影響が大きいなどの理由から実現できませんでした。ただし、将来的には駅が設置できるよう、軌道に水平区間を設けておいたことから、このたびの実現となりました。アストラムライン新駅と連絡通路については、昨年プロポーザルコンペを実施し、最優秀設計者を選定しました。現在、平成26年春の開業を目指し、設計等を進めています。
2つ目は、JR広島駅です。広島駅周辺地区は、新幹線口の若草町市街地再開発事業やや南口B・Cブロックの市街地再開発事業が進められており、また、駅周辺の回遊性を向上させるため、南北自由通路や新幹線口広場のペデストリアンデッキなどの整備に向け、設計等を進めています。こうした中、路面電車の駅前大橋ルートへの付け替えを含む広島駅南口の再整備についても、今年度から本格的な検討を進めています。
3つ目は、JR西広島駅です。アストラムラインの広域公園前駅から己斐への延伸については、財政的な理由等から、現在計画を凍結していますが、JR西広島駅は、1日約1万8千人の利用者が不便を強いられていることから、将来アストラムラインの己斐延伸が実現した際の整合性に配慮しながら、先行整備についての検討を行っています。具体的には、自由通路の整備と併せ、駅の橋上化を行う予定です。
4つ目は、JR可部線の電化延伸です。JR可部線は、市の北部地域における重要な公共交通軸であることから、昨年2月に、可部線の活性化に向けた連携計画を策定しました。この計画には、電化延伸や駅のバリアフリー化などのハード施策と、環境を意識した交通手段選択への啓発活動などのソフト施策を盛り込んでいます。この連携計画にもとづき、現在、平成15年11月に廃止されたJR可部線の可部駅以北の区間のうち、可部駅から長井・荒下地区を含む河戸エリアまでの約2kmの電化延伸について、JRと連携して検討を進めています。
5つ目は、乗合タクシーについてです。さきほどお話ししたとおり、今後は、移動に制約を受ける方の増加が予想され、移動の確保の問題が一層深刻化すると考えられます。バス路線のある地域では、利用者の減少によりバスが減便され、それが利用者の減少を招くといった悪循環により、バス路線の廃止に至るケースが増えています。また、バス路線のない地域では、これまで自家用車を利用していた方々が、高齢化により運転ができなくなり、買い物や通院などの日常生活に支障をきたすケースが生じています。こうしたことから、本市では、地域が主体となって取り組まれている乗合タクシーの導入について、最初の実験的な運行に必要となる経費の一部を負担するなど、積極的な支援を行っています。現在、安佐北区の矢口地区、安佐南区の山本地区、南区の黄金山地区の3か所において、乗合タクシーの本格導入がなされています。
道路については、さきほどご説明しましたので、省略しまして、最後に、交通需要マネジメントについて、ご説明します。
交通需要マネジメントについては、全市的に、「マイカー乗るまぁデー運動」や「パーク・アンド・ライド」といった取組を実施しています。また、都心においては、貨物車の共同集配化や歩行者天国の導入に向けた社会実験を実施しています。
「マイカー乗るまぁデー」についてですが、この取組は、地球温暖化防止の観点から、クルマに過度に頼るライフスタイルを見直し、環境にやさしい行動の実践を促すことを目的として、平成17年度から行っています。これは、『クルマを買うな』『クルマを使うな』といった取組ではなく、『賢いクルマの利用を心がけましょう』といった趣旨の取組で、すでに全国的にも多くの都市で、ノーマイカー運動として実施されています。
平成18年度から、愛称を「マイカー乗るまぁデー」とし、毎月22日を「マイカー利用を控える日」と定めて継続的に実施しました。さらに、平成20年度からは、実施日を毎月2、12、22日の月3回に拡大するとともに、車の利用を控えた取組報告がいつでもできる常設型WEBサイト「マイカー乗るまぁデーくらぶ」を開設し、現在では、携帯サイトも開設しています。
今年度は、くらぶの新規会員の増加と、環境にやさしい交通行動の実践者の増加を目指して、2つのキャンペーンを実施しました。
一つ目は、「まぁデーくんファッションコンテスト」です。この取組は、くらぶ会員に、応募シートにお好みの「まぁデーくん(マスコットキャラクター)」を描いてもらい、カメラで撮影した写真をくらぶに投稿してもらいます。投稿された作品を対象に、くらぶ会員の投票によるコンテストを行って、投票数の多い作品の応募者には商品を贈呈するというキャンペーンです。
二つ目は、「PASPY乗って買ってキャンペーン」です。この取組は、くらぶ会員を対象として、PASPYで公共交通機関に乗車して、キャンペーンにご協力いただいた店舗に行き、そこで1,000円以上の買物を行い、そのレシートとPASPYをサービスカウンターに提示すれば、後日抽選で賞品が当たるというキャンペーンです。この2つのキャンペーンにより、くらぶ会員は約500人増加し、会員数は3,000人を超えました。
また、中央ロータリークラブの方々には、エコドリーム運動の一環として、「マイカー乗るまぁデー運動」に積極的に取り組んでいただくとともに、昨年11月には、府中のソレイユにおいて、「マイカー乗るまぁデーくらぶ」への会員登録キャンペーンを行っていただきました。その結果、92名もの方々にくらぶに新規加入していただくことができ、厚く御礼申し上げます。今後とも、引き続き、ご支援、ご協力をお願いいたします。