卓話時間
第1699例会
2016年03月07日 (月曜日)
- タイトル :
- 今我々に問われていることー中東情勢とイスラーム主義勢力の隆盛
- 卓話者 :
- 広島市立大学国際学部 宇野昌樹 教授
現在、中東世界は今まで経験したことのない未曾有の混乱状況を呈しています。シリア内戦は解決の糸口さえ見出せず、イラクやアフガニスタンもテロの止む気配がありません。リビア、イエメンもまた無政府状態が続いています。加えて、イスラーム圏における宗派対立(特にスンニー派とシーア派)も顕在化し、クルド人が多数暮らす地域(トルコ、シリア、イラク、イラン)では彼らが自決権を求めて、それぞれの国の軍隊と軍事衝突を繰り返しています。このような状況が生み出された背景についてシリア内戦を手掛かりに現在から過去へ遡って鳥瞰してみたい。
当該地域への理解のために
① 欧米的世界観(オリエンタリズム)
② イスラームに対する無知・偏見
③ 発展途上国に対する固定観念
シリア内戦の背景
① 2010年12月チュニジアで起こった民衆蜂起、いわゆる「アラブの春」
→エジプトでムスリム同胞団主体の政権成立 その後軍事クーデタによりシーシー政権成立 独裁体制の復活
→リビアではカッザーフィー政権崩壊後部族勢力の群雄割拠とイスラーム勢力隆盛
→イエメンではシーア派の一派フーシー派が独裁政権を打倒、フーシー派の勢力拡大を恐れるサウジアラビアが湾岸諸国を巻き込んで軍事介入
② 独裁体制と民衆の抵抗
東方問題→ヨーロッパ列強によるオスマン帝国への政治的介入
国境の非歴史性→脆弱な国家の枠組み
パレスチナ問題の発生
脆弱な経済基盤
⇒不安定な社会と警察力・軍事力の肥大化
③ 部族的・宗派的伝統社会
国家の利害関係が部族、宗派単位で働く
④ イスラーム勢力の隆盛
1920年代末にエジプトで生まれたムスリム同胞団の影響→1981年ハマ事件
1979年イラン・イスラーム革命の拡散と驚異→スンニー派とシーア派の対立
1979年ソ連のアフガニスタンへの軍事介入→米国によるイスラーム主義勢力支援
1989年ベルリンの壁崩壊 90年ソ連邦の崩壊→社会主義・共産主義思想への失望
⑤ 2003年イラク戦争とその後のスンニー派・シーア派対立の激化→ISの誕生とその隆盛
シリア内戦の現況
シリア内戦は、大きく分けて5つの勢力が互いに敵対して戦闘を展開、これに大国の米国や有志連合、ロシア、そして周辺諸国がそれぞれの利害関係から軍事介入している状況
米国や有志連合はアサド退陣を要求すると共にイスラーム主義勢力を拒否
ロシアは既得権を守るためアサド政権支持
イラン、ヒズブッラーはアサド政権(アラウィー派)支持
自由シリア軍は雑多な集団の集合体→反イスラーム主義
トルコは自国のクルド人勢力と繋がるシリア・クルド人勢力を敵視し、勢力拡大を危惧
→イラクのクルド自治権拡大を憂慮
持(支援) 対立
① シリア政府 ロシア、イラン、 米国、英、仏、トルコなど
ヒズブッラー(レバノン) サウジなど湾岸諸国
② 自由シリア軍 米国、英、仏など ロシア、イラン
ヒズブッラー(レバノン)
③ イスラーム勢力 ISとは対立
(アル・カーイダ系ヌスラ戦線)トルコは消極的支持
④ IS(イスラーム国) トルコは消極的支持 ヌスラ戦線とは対立
⑤ クルド人勢力 米国、英、仏など トルコ
内戦が生み出す危機
① 周辺諸国への内戦波及
② ヨーロッパにもたらす難民問題
③ イスラーム主義勢力の隆盛
内戦収束のために
① 政治的・軍事的介入が内戦終結に役立たないことを理解
② 当事者間の直接交渉へ導く