卓話時間
第1369例会
2008年03月24日 (月曜日)
- タイトル :
- 「歯周病と3人の恩師」
- 卓話者 :
- 広島大学大学院医歯薬学総合研究科 栗原英見氏
“歯周病”は読んで字の如く、歯の周りの病気です。“むし歯”は歯そのものが侵されますが、歯周病は歯を支えている周りの組織(歯周組織)が破壊され、歯を支えることが出来なくなる病気です。歯周病は歯周病を起こすバイ菌(歯周病原細菌)が歯と歯ぐき(歯肉)の間から感染し、バイ菌の感染が拡がらないように人間の体がバイ菌と戦う結果、歯周組織が破壊されてしまいます。ブラッシング(歯磨き)を怠ったり、方法が不適切であると、“歯と歯の間”や“歯の歯ぐき”に近いところのバイ菌が除去されずに、分裂を繰り返して、 “バイ菌の塊(細菌バイオフィルム)”になって増えます。バイ菌の毒素が歯ぐき(歯肉)を刺激して、炎症を惹き起こし、歯ぐきから血が出るようになります。こうなりますと益々歯周病のバイ菌が増える環境が整います。バイ菌の増加と歯周病の悪化が悪循環を繰り返すことによって歯周病が進行していきます。
歯周病は大きく分けて歯肉炎と歯周炎に分けられます。歯肉炎は歯ぐきに限局した炎症で完全に治療することが出来ます。歯周炎は歯を支えている骨の吸収を伴うもので、通常の歯周治療では元の状態には戻りません。完全に回復するのは再生治療を受けても困難です。歯周炎はさらに、侵襲性歯周炎(10代から20代の若いころから発症する)と慢性歯周炎(30代以降に発症する)があります。侵襲性歯周炎は生まれつきバイ菌のから体を守る機構に異常(遺伝性素因)があると考えられています。慢性歯周炎は日常生活の上でブラッシングが不適当であったり怠ったりしてバイ菌が十分に除去できていないことが原因です。
多くの成人にみられる糖尿病や肥満は歯周病に罹りやすくなる原因となります。一方で、歯周病は糖尿病、動脈硬化、高血圧、低体重児出産、早産、嚥下性肺炎などの全身疾患と深く関わっていることが近年明らかにされています。したがって、歯周病は単に口の中の問題では無く、全身の健康を維持しようと考えるのであれば、歯周病を徹底的に治療しておく必要があります。
私の歯周病研究は恩師村山洋二先生(岡山大学名誉教授)の教えから出発しています。村山先生の「品位と威厳」という教えは常に私の臨床、教育、研究の基本になっています。二人目の恩師は江藤一洋先生(東京医科歯科大学名誉教授)です。江藤先生からはアジア諸国との国際連携の重要性、日本の果たすべき役割について教えて頂きました。現在、広島大学が進めている国際化の中で、教員の一人として歯学教育・研究でアジア諸国に貢献したいと考えています。三人目の恩師は画家であった父、栗原克実です。墨彩画という墨絵に油絵の要素を取り入れたスタイルを確立しました。大分県杵築市の武家屋敷の地区に美術館があります。書や絵画を小さい頃に叩き込んでくれた父に感謝しています。自分の中に生きている“父”を一層大切にしていきたいと思っています。