卓話時間
第1245例会
2005年05月09日 (月曜日)
- タイトル :
- 「薬と上手につきあう方法」
- 卓話者 :
- 迫田勝明君
薬は、使い方によって、内服薬(飲み薬)では、散剤(粉薬)、水薬(みず薬)など、錠剤として、舌下錠、付着錠などがあり、その他、注射や軟膏、坐薬などの外用薬等、形はいろいろある。貼付薬、
一番よく使われているのは、錠剤(医薬品を一定の形に圧縮したもの)で、内服用錠剤(口の中で解け、水無しでも飲めるものが出ている)、口腔用錠剤として、付着錠、バッカル錠(臼歯と頬の間で溶かす)、舌下錠(舌の下で溶かす)、トローチ(口腔内で溶かし殺菌する)、外用錠、膣錠などがある。
味や臭いの悪い薬は、カプセルに詰めると飲みやすくなり、消化管の中では比較的早く崩れて放出される。カプセル剤は必ず水と一緒に飲むことが必要で、そのまま飲み込んで食道にくっつき、潰瘍の出来た例がある。
坐薬は、始めは、痔などの局所の消炎鎮痛に使われたが、最近では直腸から吸収させ、感染症、炎症、嘔吐、喘息、癌などの全身性疾患にも使われる。肛門や膣から挿入し、局所や全身の疾立てる薬
体の表面に貼り付けて、皮膚から吸収させる薬を貼付薬という。
ハップ剤(薬剤を布にやや厚く塗ったもの)とプラスター剤(プラスチックのポリエチレンフィルムに薬剤と粘着剤を薄く塗ったもの)がある。
薬と食事の関係は、「1日3回食後服用」と書くが、1)飲み忘れを防ぎ、効果を持続させるのに都合がよいことだけである。2)食事によっては、効き目が増減したり、副作用が強くなったりすることがある。
薬には、多くの薬に相互作用と副作用があるので、注意が必要だ。副作用としては、アレルギー反応、細胞毒性などがある。相互作用としては、薬と薬の組合せによって、作用が強くなったりする事がある。また、薬と食事によっては、薬剤の吸収が悪くなる事がある。
相性の悪い食べ物、嗜好品と薬として、納豆、黄緑色野菜とワーファリン(抗凝固薬)、牛乳とミノマイシン(抗生剤)、ダイドロネル(骨粗しょう症)、グレープフルーツとアダラート(降圧薬)、トリルダン(アレルギー治療薬)、サンヂュミン(免疫抑制剤)、アルコールとハルシオン(睡眠剤)、フェノバール(抗テンカン薬)、たばことテオドール(ぜんそく)とインデラール(狭心症)などがある。
納豆は糖尿病や高血圧などの生活習慣病や老化の防止に役立つといわれている。納豆のネバネバに含まれるナットウキナーゼという酵素は血栓を溶かして血液をさらさらにする作用がある。ナットウキナーゼは70度以上の高温に弱いので、少しご飯が冷めてかけるのが良い。しかし、納豆は腸の中でビタミンkを作る作用があり、ビタミンkはワーファリンの効果を激減させる。
薬をいつ止めるかは、薬によって違う。薬には、病気を根治させる薬と、症状を抑えるだけの薬がある。症状を抑える薬は、症状がなくなったからといって勝手に薬を止めると、症状が再発することがある。医師に薬の性質を良く聞いて止めるのがよい。
薬をのみ忘れた場合は、飲み忘れた薬を一度に飲んではいけない。中毒作用を来たす事がある。そのまま、続けて飲めばよい。
余った薬は、錠剤やカプセルは、丁寧に保存すれば、1-2年は有効だ。袋に名前を書いて保存しておけば次に役立つことがある。水薬は、1週間以上は捨てる。坐薬は、冷所に保存すれば、1年は有効だ。
「成人病」と呼ばれていた病気は、「生活習慣病」と呼ばれるようになった。成人病は、大人になったらかかる病気と考えられやすいが、生活習慣病は、生活習慣の改善により予防できる病気であるという意味がある。
生活習慣病の総患者数は、
高血圧性疾患 | 7492 |
糖尿病 | 2175 |
心疾患 | 2039 |
脳血管疾患 | 1729 |
悪性新生物 | 1363 |
計 | 14798 (単位:千人) |
であるが、生活習慣病の医療費は、
がん(悪性新生物) | 19452 |
脳血管疾患 | 18684 |
高血圧性疾患 | 17865 |
糖尿病 | 9668 |
虚血性心疾患 | 7292 |
計 | 72961 (単位:億円) |
である。
生活習慣病の治療は、先ず、生活習慣の改善、禁煙、適度の運動、肥満改善、減塩食、節酒、ストレス解消などを行い、その、非薬物治療の効果が不十分な場合に薬物治療を開始する。
高血圧の治療は、高血圧の合併症として、脳卒中や心筋梗塞などの重篤な疾患は早朝から午前中に多発する。血圧の変動に合わせて、降圧効果が期待できる薬の種類、量、回数、服薬時間を選ぶ。
高血圧などの多因子疾患は、成因を事にする疾患の集まりであるので、最近は、個々人の遺伝素因、生活習慣に対する情報によるテーラーメイド医療がおこなわれる。
狭義のテーラーメイド医療は、特定の治療薬(又は治療法)に対する反応性を個別に調べ、病気の状態(質)にあったきめ細かい医療を行う。
治療薬に対し、効果の有無、副作用の有無などの違いにより投薬をかえることを言う。
広義のテーラーメイド医療は、成因を含めた病気の状態に関する詳細な情報収集を行い、疾患予知、最適な治療法の選択に役立てる。
本態性高血圧も、減塩指導、肥満回避、ストレス回避などと、対応も各々代える。
生活習慣の改善による血圧低下予測は、上島滋賀医大教授によると、
食塩半減(1日あたり12gを6gに) 3
カリウム摂取の増加 3
体重3kgの低下 2
1日ビール1本か日本酒1合の節酒 5
速歩1日30分 5―10(単位ミリ水銀柱、)という。
高血圧の薬は、一週間連続服用で定常となり、血圧は8週で安定する。血液中の薬の濃度が半分になるまでの期間が長いので、中止後も効果が持続し、他の降圧剤を使用するときは注意が必要だ。
高血圧の薬はグレープフルーツと一緒に飲んではいけない。グレープフルーツには、オレンジには含まれていないフラボノイドが含まれているため、消化管の薬物代謝酵素を阻害し、薬物吸収量を増加し、血中濃度が上昇する。結果として、薬効と副作用が増強する。薬を飲む数時間前ないし同時に飲んだとき、その作用は最も強くなる。
高脂血症は、血液中の脂肪(コレステロール、中性脂肪=トリグリセライドなど)の濃度が高くなりすぎた状態をいう。コレステロールは体に必要な成分だが、過剰になったコレステロールは血管壁に沈着し、動脈硬化をひきおこす。コレステロールの高い人は心筋梗塞になりやすい。コレステロール合成は夜間に亢進するので、夕食後服用するのが良い。高脂血症の薬効果は1週間で現れる。
糖尿病の治療の目的は、いかに血糖値をコントロールするか、また合併症の予防、進展悪化を防ぐかである。この治療の基本となるのは、食事療法と運動療法であるが、それでも治癒しないとき薬物療法を行う。
現在、日本には700万人の糖尿病患者がいると推定される。100万ないし150万人が薬物療法を受けている。そのうち、40万人がインスリン注射をおこなっている。
経口糖尿病治療薬は、食前か食直後に服用する。作用がマイルドなものと、シャープなものがあり、作用時間の持続するものもある。
低血糖を起こすことがあるので、用法、用量をとくに守ることが必要だ。
最後に、長寿の秘訣について言う。これは、西園寺公望の主治医であった勝沼精蔵博士が、御木本幸吉に問われたときに答えたものである。
第一に、生きる意欲を持つこと。
第二に、年とともに仕事の範囲を狭めること。
第三に、夜は床の上で尿瓶をつかうこと(老人は寒いとき寝巻きのままでトイレへいき、よく脳溢血をやらかす)。
第四に、つとめて小魚と海藻類を食べること。