卓話時間
第1693例会
2016年01月18日 (月曜日)
- タイトル :
- ゲスト卓話
「プロ野球選手の心と身体」
- 卓話者 :
- 広島東洋カープチーフトレーナー 福永富雄様
私どもプロ野球のトレーナーが年に1度オフシーズンに「トレーナー研修会」を開催しておりますが、昨年の12月東京でありました。会場で私のすぐ
後ろにソフトバンクのチームドクター原正文先生が座っておられましたので、あることを思い出して、話しかけました。それはもうずいぶん昔の話ですが、チームが遠征にでかけるのに広島駅で新幹線の列車を待っていましたら、その列車から降りてこられたのがそのソフトバンクのチームドクターの原先生でした。
後ろからついて降りてきた人が工藤公康 いまのソフトバンクの優勝監督でした。「先生、広島に何事ですか」聞くと「工藤君を広大の村上先生に診てもらいに来たのだ」との答えでした。ゆっくり話す時間はありませんで、その時はそのままでしたが、そのことを思い出して、その時の話を聞いてみると「村上先生に肘の診断をしていただき、手術のアプローチの方法を教わったのだ」。とのことでした。
カープの選手はもちろんのこと、中日の選手や他球団の選手も村上先生を頼って来ておりました。
次の話も古い話になるのですが、春のオープン戦で日ハムとのゲームで試合開始前に金石昭人が私のところに訪ねて来ました。金石は金やん、金田正一さんのおいになる人ですが、今も奥さんの元オリンピック、バトミントン選手の陣内キミ子さんとテレビのコマーシャルに夫婦で出演しておりますね。
その彼がカープ時代、「村上先生に肘の手術してもらいおかげさまで、長く投げることが出来、引退することが出来ました」とあいさつに来たのですね。
手術前は7,8年一軍のチャンスはあまりありませんでした。村上先生に手術してもらい、さあこれからだというのに、その時、カープは投手王国で出番が回ってこない状況でした。本人は「せっかく肘が治ったのに」出番がないとトレードを希望し、日ハムに行きましたところすぐにエースになりました。その時、新聞で知ったのですが、年俸一億。カープでは誰ももらっていなかったのではないかと思いますが。ほんとうに村上先生に感謝しておりました。
年俸と云えば、プロ野球はすごいですね、今年黒田が日本球界でトップだということですが、カープでは二人目。山本浩二が最初だったのです。「年俸の話になると、また昔を思い出したのですが、昔の話で申し訳ないのですが、オールスターゲームでセリーグの代表トレーナーについたとき、横浜球場の監督室で選手の体に状態を監督の王さんと話す機会がありまして、その時に王さんが、「カープは良い球団だね」と言われ、山本浩二の年俸の話だったのです。自分は、山本浩二ほど年俸はもらってなかった。ということですね。
こんな話をしにきたのではないのですが、ついつい。」健康寿命の話でもと思ってきたのですが、ここにお集まり皆様はお元気で寿命がどうのこうの話なんか不向きかと思いますが、健康寿命とは日常生活が介護なしで、生活に支障がでるほどの病気にかからなく、人の手を煩わすことなく暮らせる期間のことです。
運動器官の障害でロコモティブシンドロームと云う言葉がありますが動けることが大事だということですね。
平均健康寿命2013年の発表では 女性 74.21才 男性 71.19才だそうです。ちなみに平均寿命女性が86.83才 男性が80.50才。ということですが。
さて、プロ野球選手にとっての寿命は選手生命になりますが、中日ドラゴンズ山本昌弘投手はすごいですね。50歳で引退を決意しました。レポーターの「心とからだの部分はどうですか?」に「気持ちはまだまだやりたい、あとひとつは勝ちたかった。しかし体がだめだ。大きく変わろうとするチームの邪魔になってはいけない」の言葉でした。
昔から武道、スポーツは「心・技・体」と言われていますが、前田智徳は2月のキャンプ前に、野球をするには「体・技・心」と言っていました。山本投手も体・技・心ですね。まず体ですね。
人間、健康寿命を延ばした思いはだれしも一緒だと思いますが、選手も選手寿命を延ばし選手生活を長く続けたいのも同じことですね。
そこで選手はからだのためにいいことをいろいろしておりますが、今日は簡単のことを2つほど紹介させていただきます。アイシングと交代浴です。
皆様の健康のヒントになればと、活性酸素、ミトコンドリア、をキーワードとしてお話しさせていただきます。難しい話ではありません、我々トレーナーがやってきたことの一部を紹介してみようとのことです。
活性酸素
ハードなスポーツが副作用に、活性酸素の発生でダメージを受けると言われています。ほとんどすべての動物は酸素を使って体内の栄養分を分解し、エネルギーを作り出す。物が酸素と結びつく働きを酸化と言います。
わかりやすいのは鉄が時間とともに錆びついてきます。リンゴなど、くだものを切ってしばらくたつと、切り口が茶色に変色します。人間の体はひとつひとつの細胞が血液から酸素と栄養分を受け取り、燃やしてエネルギーを得ています。(いいかえれば酸化している)
体内に取り入れた酸素はエネルギーを作り出す代謝の過程で不安定な状態になります。不安定になると、近くにある物質と盛んに結びつこうとします。この時、毒性の強い「活性酸素」が発生します。
酸化した細胞は機能をはたせなくなり、細胞を傷つけ、さまざまな病気につながっていきます。
老化や病気の主犯がほとんど活性酸素と言われています。
おもなる原因
・激しいスポーツ・体内に病原菌が侵入したとき・タバコ・煙等の排気ガス・飲酒・大量の紫外線・食品添加物、洗剤、農薬などの化学物質・ストレス
一方では活性酸素は体内に細菌やウイルスが侵入してくると、みずから活性酸素を作りだし強い殺菌力で病原体を退治してくれる働きもあります。
ミトコンドリア
活性酸素と関係ある器官が体細胞の中にあります。活性酸素を抑える働きをしてくれるのです。それがミトコンドリアです。
一つの細胞の中に100~数千個ある小器官です。栄養と酸素を分解してエネルギーを作ってくれる物質。それが生命の起源と言われるミトコンドリアです。電子顕微鏡の世界です。ドイツの細胞学者C・Bendaが命名した物質です。ですから、ミトコンドリアが多い方がいいのです。
増やすことによって
・活性酸素を抑える・体力アップ・若返り・太りにくいからだを作る。
そのような体に良いものを増やすにはどうしたら増えるかということですが研究された方がおられます。 日本医科大学 太田成男教授
・有酸素運動(ジョグ 歩行 自転車こぎ)・背筋を伸ばす(呼吸に関係あることで深呼吸)・寒さを感じる・空腹を感じる・アイシング・交代浴。
でましたね、アイシング、交代浴、昔からカープの選手がしていました。
・アイシング
打撲や捻挫の直後に患部を冷やすことはずいぶん昔から行っている。
投手が投げた後、肩や肘を冷やしているのを見られますが、運動のあと疲労回復に酷使した筋肉、関節の障害を予防するために、アイシングをしています。20分前後運動をすると疲れのもととなる物質が毛細血管の壁にたまり、これを放っておくと、この物質が(毛細血管の外に)流れだし、その部位にたまり、そこが腫れ、しだいに傷み、ついには傷害として残るわけです。
これが使い過ぎによる障害が生じる過程です(Overuse Syndorome)。冷やすとどうなるか?で血管が収縮されます。血管壁に付着している疲労物質が過度に外に流れ出すのをおさえられるということです。血管壁の透過性の低下。
また、20,30分冷やすことで、収縮した血管はリバウンド現象で拡張し、血流が良くなり血管壁に滞っている疲労物質が流れ、速やかに疲労回復を促進します。昔、小学生の頃、冬に雑巾がけをしたことがありますが・・・しばらくすると手がぽかぽか温くなることを経験されたことを思いだしませんか。これがアイシングの効果の一つです。
ドジャーズのチームドクターがエースのコーファックスに施したのがアイシングの始まりです。
活性酸素を抑えるためにアイシングをしているということです。
・交代浴(温冷療法です)
カープでは、練習後、試合後に入る風呂には水風呂、温水のジャグジーの浴槽が用意してあり交互に入れるようにしてあります。
又トレーナー室の隣には水治療が出来る部屋があります。一人用の過流ポンプのついたタンクが(気泡浴)4器あり42~43度のお湯と氷を入れて14,5度の水温にして交互に入る、交代浴をしております。黒田5℃冷水、44℃の湯で交代浴。疲れた体や痛めた筋肉や関節に温冷を交互に与えると血液、リンパの流れが増して、好影響を促します。
「家庭では二つの浴槽をもつことは出来ませんが、私はしばしば風呂の中でしっかり体を暖め、湯船から上がり、冷たいシャワーで手、足にかけて冷やします。胸にかけることはしませんが、腰にかける時もあります。
アイスノン、氷嚢を使って、浴室、風呂上りにもアイシングして温冷療法を行うことが出来ます。」アイシングと云えば前田智徳のアイシングは半端でなかったですね。演題が心とからだになっていますが、前田智徳の心は強く感じます。
「心」は鍛えるものだと言っています。それは練習の時から追い込んでおかなければならない。それは打てなかった場面を思いかえして練習をする。
追い求めて、積み重ねていくことにこだわらなければならない。心を鍛えておかなければ勝負どころでは打てない。
もう一つの心の部分ですが。引退をまじかに控えたある日、大野練習場に「東京に来てチームと同行し、東京ドームでファンにお別れしなさい」と。野村監督から電話がかかってきました。
そこで、トレーナー室で遠征の準備に大わらわだったのですが、私は気になったことがあり、本人に聞いてみることにしました。
「あの油まみれになった布が入っていた黄色の袋まだ使っている?」と聞きましたら、「ああ、この遠征用のバック入っています」
やっぱり、そうか、と感心しました。それは10年位前、日南キャンプのトレーナー室で前田の用具のなかで、その場に似つかわない油で汚れた黄色い袋を見ました。その汚い袋は何?と聞きましたら、「カープに入団するとき、親から買ってもらったグラブが入っていた袋で、今、グラブやスパイクシューズを磨くぼろ布が入っています」。23年の間、親から買ってもらったグラブが入っていた袋を大事に使っていたというのは心を打たれましたね。
また23年間途切れることがなく、やっていたことがあります。彼が、初めてのプロの日南キャンプで先輩達の練習を見て、片手でティーバッティングしている選手がいました。ピンチヒッターで活躍した、左バッター西田という選手でした。マネをしてみたところ、ボールを捉えられることが出来ませんでした。それに挑戦したところ、やがて下半身を使わなければうまく打てないことがわかり、打撃練習の前に片手でティーバッティングをかかさなかったのですが、引退のマツダスタジアム最終戦で私は彼のバッティング練習が始まったのでみていると、やはり片手でティーバッティングから始めだしたのです。これにも感銘しました。
まさに「継続は力なり」と言うことですか。ケガの多かった23年間の野球人生、技術を磨き、心とからだをいかに大事にしたかを感じますね。
「継続は力なり」は衣笠祥雄の言葉でしたがこの言葉が・・・・・・・・・・・・
衣笠祥雄が、昔話に長島さんとのことを話してくれたことですが、伝説の人ですね、長島さんにバッティングを教えてもらった時、「キヌ、ボールをジィーとみていると1㎝の芯が見えるから、そこをバーンと打つのだよ」。
息子さんの一茂さんが以前テレビでの話でニューヨークから電話で松井ゴジラがバッティングの調子が悪くなったとき。
教えを乞うためにニューヨークから長島さんに電話したところ、「そこで振ってみろ」と言われてスイングしていたら、そのうち「そのスイングだ」と言った話。をしていましたが、音を聞いていたわけです。
バットスイングは試合で打つ時のイメージ、フォームをかためるために素振りの練習をするわけです。
昨年の8月25日の中国新聞に金本が語ってくれた記事ですが、金本が2002年のオフFAで阪神に移籍してから、翌年の4番バッター新井となったのですが、のび悩んで開幕のスタメンも外れ状態でした。そこで何度も新井が金本のところへ電話したそうです。
どんなアドバイスをしたかと云うと電話越しにスイングの音を聞き、フォームを修正し基本を徹底したと言うのです。そのシーズンの終盤二人が本塁打王を争って、金本30本、新井が43本でホームランキングになったと言う話です。
そこで気になるのがその音ですよ、早速、新井に聞きにいきました。
身振り手振りで細かいバッティングフォームの話を始めだしたのですが、私のような素人にバッティングフォームを教えられてもよくわかりませんが、きちっとしたフォームでスイングし、へその延長のところでバットのヘッドが返るとブーンという音がブンッと聞こえるようになるということでした。
その話を聞いて、同じバットスイングの話を思いだしました。昭和43年の話ですが、阪神からトレードで山内一弘と言う打撃の職人と異名をとる外野手が入って来られたのですが、のちにロッテオリオンズの監督をされたかたですが、その人のニックネームが「カッパえびせん」また「夜中の先生」とも呼ばれていました、夜になるとトレーナー室にからだのケアに来ている選手にバッティングの話を始めだしたら「やめられない、止まらない」でしたね。コマーシャルのフレーズで「やめられない止まらないカッパえびせん」でしたね。お陰さまでカープ創設いらい初の三位でAクラス入りした年でした。
その時の話は、部屋で暗くして精神を集中してバットスイングしているとブーンと云う音がやがて、ポンという音になるということを聞いたことを思い出しました。それが一番いいフォームだということですね。
新井選手の今季ヒット数が後29本で2000本安打、黒田投手の後7勝で200勝。目が離せません。
予定の時間が来ましたので、このあたりで拙い私の話におつき合いしていただき有難うございました。