卓話時間
第1598例会
2013年09月09日 (月曜日)
- タイトル :
- 伝統的工芸品 その1[熊野筆]
- 卓話者 :
- 熊野筆事業協同組合 常務理事 荒滝芳彦氏
地元再発見!「伝統的工芸品の製造・販売」 その1「熊野筆」
1.「伝統工芸品」と「伝統的工芸品」は異なります!
経済産業大臣が指定する「伝統的工芸品」は、次のような要件に従って指定されます。
① 工芸品であること。
② 主として日常生活の用に供されているもの。
③ 製造過程の主要部分が手工業的であるもの。
④ 100年以上続いた伝統的技術または技法によって製造されるもの。
⑤ 伝統的に使用されてきた原材料を使用していること。
⑥ 一定の地域で産地形成されていること。
品目数は現在全国で215点を数え、広島県では熊野筆の他に、広島仏壇、宮島細工、福山琴、川尻筆が指定されています。
2.熊野筆の発祥と歴史
熊野町は、広島、呉、東広島の三つの市に囲まれるように位置し、四方を海抜500m前後の山々に囲まれた小さな高原盆地です。人口は約25,000人の小さな町で、その内約2,500人が筆つくりに従事しています。22名が伝統工芸士に認定された筆づくりの名人です。
筆の原料となる動物の毛はほとんど中国からの輸入ですし、軸の竹・木も中国、韓国からの輸入で、原材料は熊野には一切ありません。
このような条件の中でなぜ熊野町で筆作りが始まったのか?18世紀末(江戸時代末期)頃、平地の少ない熊野村では農業だけでは生活が苦しいため、農閑期を利用して若者達が近畿地方に出稼ぎに出て、近畿地方から筆や墨を仕入れて行商していたようです。その内一部の人間が、筆の作り方を習得して帰ってきました。広島藩の工芸の推奨により、全国に筆の販売先が広がり、本格的に筆づくりの技術習得を目指すことになりました。
明治5年には学校制度ができ、学校教育の中で筆記具として筆が大量に使われるようになりました。また、第一回内国勧業博覧会で熊野筆が入賞したことにより、全国から注文が入るようになりました。このように需要が伸びる中で大量生産が必要になり、熊野町では分業システムを確立させ、大量生産を成し得る体制をつくり、生産量が大きく増加しました。昭和10年には年間約7,000万本生産したという記録も残っています。
しかし、第二次大戦後に習字教育が廃止され、書道筆の生産量が落ち込みます。この頃から画筆と化粧筆の生産が始まりました。
昭和40~50年代には、画筆の輸出が盛んになり、昭和46年には習字教育も復活して書道筆の生産も回復しました。そして、昭和50年に通商産業大臣により熊野筆が伝統的工芸品の指定を受けました。
平成以降には、画筆の輸出が止まり、この頃から化粧筆の生産が本格化しました。現在では、熊野筆は書道筆、画筆、化粧筆の生産量で全国一の産地に発展し、2011年8月に「なでしこJAPAN」の国民栄誉賞の副賞に熊野筆が授与され、2013年2月には政府閣僚が閣議の署名に使う筆に熊野筆が採用されました。
3.熊野筆の特徴
熊野筆が大量生産できるようになったのは、町内に分業制を確立した為です。原毛、穂首、軸、ダルマ、鞘等の各部材の専門業者が町内に存在しますし、筆の各メーカーは社内に職人を抱えると共に町内に独自の内職職人を確保しています。それらの社内または内職の職人が作った穂首を、軸の専門業者から仕入れた軸に繰り込んで、完成品にして自社ブランド又はOEM製品として全国に出荷していきます。
4.熊野筆の市場
書道筆の市場は国内のみです。書道は中国、台湾、韓国でも行なわれていますが、日本の書道筆は一本の筆に様々な動物の毛を混ぜて作っており、基本的に単一の毛で作る中国製の筆とは異なります。画筆・化粧筆の市場は国内・海外両方です。
5.熊野筆の問題
他の伝統的工芸品の産地と同様に、職人の高齢化・減少及び後継者不足は問題です。その問題を解決する為に、熊野筆事業協同組合が行政の支援を受けながら「マイスタースクール制度」を導入して後継者育成を図っています。伝統工芸士の指導を受けながら、初級コース、中級コース、仕上げコース等を行って、職人を育成しています。
また、最近では原毛が入手困難になっているのも問題の一つです。国内はもとより、中国でも動物の猟をする人が少なくなり、動物の毛が入手し難くなっています。また筆に適した毛は基本的に寒い地域の野生の動物の毛であり、養殖等では対応し難い点もあります。
6.熊野筆の挑戦
①Jetro等公的機関の支援を利用して「ジャパン・ブランド」等で海外市場への販路拡大に努めています。熊野町商工会でパリ・ルーブル美術館での展示・商談に参加したり、NYギフトショーへ出展したりして、KUMANO FUDE ブランドの海外での普及に努めています。
②「筆の里工房」で国内外の書家・画家の作品展を開催したりして筆の文化の発信に努めています。
③広島県伝統的工芸品フェスタ等県内の他の伝統的工芸品生産業者との協働活動を行っています。
④筆まつり(9月23日秋分の日)は熊野筆と筆の文化を外部に発信する行事ですが、筆の日(3月20日春分の日)は町民が筆を使い書道や絵画を描いて内外の方々に鑑賞して頂く行事です。
筆まつりには是非熊野町にお越し下さい!