卓話時間
第1453例会
2010年04月19日 (月曜日)
- タイトル :
- 会員リレー卓話
「診療報酬体系 DPCについて」
「切らずに治す癌治療」
- 卓話者 :
- 土肥博雄君
田原榮一君
「診療報酬体系 DPCについて」
土肥博雄君
本日はDPC請求について話します。従来病院からの入院に係る請求は出来高、つまり掛かった薬価代、検査代、食費、入院料が積算されて請求されていました。しかしそれでは下手な手術をして合併症が発生するとその治療代、検査代が大きくなります。上手く手術すると合併症が無く直ぐに退院出来、あまりコストが掛かりません。これは可笑しいということで、包括払いが検討されました。つまり同じ病気で入院したのなら同じコストなので、結局トータルコストが下がるというのです。これには反対もありました。つまりそうなると合併症が出そうな高齢者の手術は誰もがいやがり、十分な医療が受けられない可能性があります。そこで厚労省は全国の病院から同じ病気でどの程度のコストが掛かっているのか大規模な調査を行いました。
DPCを選択するには先ず準備病院として2年間データを提出しなければなりせん。そして申請しDPC病院となるのです。現在DPC病院は殆ど全国の病床数の半数となっています。DPCとはDiagnosis Procedure Combinationの略です。対象は一般病院に入院している患者さんで、表の対象とならない症例を除きます。入院医療費の計算は出来高請求では医療行為を積み上げて算定しますが、DPCでは使用した薬量や検査の種類・回数に関係なく疾患群毎に決められた一日当り一定の金額を請求するものです。
そのなかでも手術などは出来高評価をします。計算方法は一日当りの点数に医療機関ごとに決められた係数と入院期間を掛けて算出します。
医療機関ごとに決められた係数は1.機能係数I 2.機能係数IIがあります。それに従って計算するので、医療機関は何とか係数を獲得しようと勤めるのです。しかし其々に決められた基準があるので容易ではありません。この様にして現在の入院医療費が決められているのです。
「切らずに治すがん医療―重粒子線治療―」
田原榮一君
一昨年の8月に「がん月間に因んで」というタイトルでがんの本体、原因、そしてがん医療対策等について概説しましたが、今日は、超高齢化社会の於けるがん医療に適した「切らずに治すがん治療―重粒子線治療―」についてお話したいと思います。
がんは、1981年以来我が国の死因の第一位を占め、毎年30万人以上ががんで死亡、総死亡の31%、3人に一人ががんで死亡されています。また、男性は2人に一人、女性では3人に一人ががんと診断されている現状です。これに対して、日本政府はこれまでに様々ながん医療対策を行なつて来ましたが、がん罹患率とがん死亡率は、75歳以上の後期高齢者の増加により右上がりに増加し続けて居ります。即ち、がん有病者の推計をみますと、2000年には男性81万人、女性69万人であり、2020年にはそれぞれ126万人、104万人に増加すると予測されています。特に年齢階級別では、男女共に75歳以上の後期高齢者のがん患者の増加が顕著で、2000年には男性で23%、女性で25%ですが、2020年にはそれぞれ39%、33%に増加すると予測されています。このことは、高齢者にとつて、体の機能が損なうことない、安全かつ質の高い、即ち“Quality of Life”を重視したがん医療の整備・充実が急務であることを意味しております。
そこで、先ず、「切らずに治す」重粒子線によるがん治療例(放射線医学総合研究所)を供覧します。右肺がんの症例ですが、28GyEを一回で、6.5ヶ月には完全にがんは消滅しています。二例目の進行した舌がん(悪性度の極めて高い悪性黒色種)では、照射数量後15ヶ月でがんは奇麗に消えています。このように、重粒子線がん治療は「切らずに治す素晴らしい放射線治療」であることがお解りかと思います。
次に「重粒子とは」について簡単に説明します。放射線は二つに大別され、一つはX線やガンマ線の様な光の波(光子線)と、もう一つは、電子より重い粒子線です。後者の中でヘリウム原子より重いものを重粒子線と呼びます。放射線治療には、陽子線と炭素イオンの重粒子線が使用されます。重粒子線治療では、炭素イオンの重粒子を光のおよそ70%のスピードに加速して体の外から照射し、体の深部のがん細胞のDNAに傷つけて、がんを選択的に殺傷します。
重粒子線治療の3つの特長を纏めますと、1)がん病巣にだけ照射:がん病巣に集中的に照射し、正常部には殆ど照射されない。切らずに治すため、機能温存ができ、しかも副作用は従来の放射線治療に比べて格段に少ない。2)一般の放射線が効かないがん、例えば肉腫にも効く。3)短期間でも治せる。即ち、陽子線治療の照射回数に比べると約半分の治療回数・期間です。例えば、肺がん、肝がん、前立腺がんの初期では、一回の照射で、がんは完全に消えると報告されています。将に早期社会復帰が可能です。
次に、重粒子線治療により効果が期待されるがんは、頭頸部がん、肺がん、肝がん、前立腺がん、骨・軟部肉腫、直腸がん(術語再発)、悪性黒色種等です。これらのがんは、先端医療に適用され、治療期間は1週間から4週間です。因みに治療成績を見ますと、早期肺がんの5年生存率が57%、肝臓がん(肝硬変合併)の3年生存率が72%、前立腺がんの3年生存率が75%と驚くべき良い成績が得られています。但し、胃がんや大腸がん等の消化管がんは重粒子線単独では制御困難です。
他の治療法と比較しますと、重粒子線治療は、早期がんから手術不能の高度進行がんまでに、遠隔転移が無い全てのがん、そして、がん病巣が局所に限定している場合に適用されます。長所として、機能と形態の欠損が少なく、身体的負担も少なく、そして、早期がんの治療成績は外科治療と同等です。しかし、短所として、重量子線治療費は他の治療法に比べて高く、一人約300万円です。もう一つ問題は、重粒子線治療装置は広い土地(65m/45m)と厚い放射線防御壁、そして炭素イオンを加速するシンクロトロン加速器を含む様々な装置が必要であり、その上、極めて高額な建設費を必要とします。
現在、陽子線及び重粒子線施設が、東北、関東、関西、九州に12施設が建設されて居り、更に佐賀県の鳥栖にも重粒子線施設が建設中です。
しかし、中国と四国には粒子線治療施設はありません。その上、中国地方には、がん予防から治療まで一貫した、先端的がん医療に特化した「がんセンター」がなく、多くのがん患者・家族は「どこに行けば良いがん医療が受けられるのか」、「今受けている診断・治療は正しいのか」等、不安と悩みを抱え、所謂「がん難民」と言葉さえ生まれています。
以上の背景を鑑み、がんの罹患率と死亡率の激減を目指して、がん予防から治療まで一貫した、先端的な医療に特化した、先進的がん医療センター、「広島国際がんセンター」:広島重粒子線がん治療センターが、広島市内で唯一残された適地(丹那)に民間主導で建設される予定です。