卓話時間
第1390例会
2008年09月29日 (月曜日)
- タイトル :
- ゲスト卓話
「広島の名水」
- 卓話者 :
- 広島国際学院大学教授
地域協同教育センター所長
佐々木 健 様
1 広島は名水が多い
広島には多くの名水が分布しています。広島の名水の特徴はカルシウムやマグネシウムの低い軟水であり、きれい(清冽)で、鉄分の少ない水であることです。広島の名水は水質的には日本一の名水といっていいと思います。それは、世界遺産、屋久島の縄文水、白神山地の名水など、地元でも、観光客なども日本一といっている名水と水質的に変わらない軟水の名水だからです。一方、これらの軟水はいろいろな成分の溶出力が強く、軟水があることで、お好み焼き、もみじ饅頭、上田流のお茶、名水パンなど独自の食文化を築いてきました。マツダの自動車産業も、この軟水名水があったからなり立っているといわれます。
2 名水と健康そして汚染
広島の名水は健康によいといわれます。花崗岩地質からの湧き水はラドンを含むことが多く、弱放射能温泉として知られていますが、ラドンを含む名水は飲んでも健康によいのです。軟水でとてもおいしく、しかも健康に良い名水は、全国的に見てもまれなのです。貴重な財産と言えると思います。
しかし、最近、生活排水などで名水が汚染されてきています。大量の食べ物などが流されると、ヘドロ化して蓄積し、名水が損なわれることが多くなってきました。また、少しの生活排水の流出でも、窒素やリンの働きにより、藻が繁殖し、それが腐ってヘドロ化することも明らかになってきました。生活排水対策は、太田川を守り、広島の水環境を保全する重要な課題です。
一方、人家や工場のない山の中でも、ヘドロ化がすすんでいます。これは、高齢化などにより里山を放置することで、山の倒木や枯葉が腐ってヘドロ化しているものと思われます。太田川は豊かな川ですが、源流部からの汚染が進みつつあり、これは広島の将来にとって由々しきことです。森林の適正管理もこれからの広島の水環境を守る、重要な課題です。
3 お酒と名水
日本酒醸造と水とは密接な関係にあります。硬度が高いと酵母の栄養になり、醗酵が進行し、お米の等分を食いきりアルコールがたくさん生成するため、辛口、男酒になります。軟水だと醗酵が緩慢になり、糖分が残留し、甘口、女酒になります。
西条は日本3大名醸地として有名ですが、ここも水は、軟水ではなく中硬水と呼ばれる、硬度のやや高い水です。灘ほどは高くなく、京都伏見の水に近いのです。したがって、広島でも西条で酒が造りやすかったので、西条が名醸地として有名になりました。しかし、広島の多くの地域では、安芸津の三浦仙三郎が開発した「軟水醸造法」でお酒を造っています。この技術はハイテクで、どのような水でも醗酵をうまく行うことができ、全国の日本酒醸造に適用されています。広島の軟水をうまく使って、すばらしいさらっとした酒を造っているのです。また、広島の酒は、変質しにくいことで知られています。呉の千福の酒などは、「赤道を越えても腐らない」といわれ、南方の戦地でも、呉と変わらないお酒が飲めて、海軍の軍人を喜ばせたそうです。
また、最近、日本酒は身体によいことが実証されつつあります。脳卒中、肝硬変、脳血栓防止などはむしろ日本酒を飲むことで減少するといわれています。また、老化防止、認知症防止などにも日本酒が効果のあることが注目されています。焼酎もいいのですが、日本酒ももっといいのです。焼酎は良、日本酒は良くないというのは全くの誤解です。適度(日本酒は2合以内)ならば、むしろ健康に良いのです。まさに百薬の長。健康志向もあり、日本酒を飲む人が増えているのもいいことだと思います。特に、軟水で醸造した、さらっとしておいしい、悪酔いしにくい広島酒を飲まれることをお勧めします。