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第1325例会

2007年03月12日 (月曜日)

タイトル :
ゲスト卓話 「司法制度改革の中の裁判員制度」
卓話者 :
広島地方検察庁検事正 坂井 靖 氏

広島地方検察庁検事正 坂井 靖 氏

平成21年5月のスタートに向けて、広島地方検察庁検事正 坂井 靖 氏の卓話を聞くことが出来た。その内容をパワーポイントの資料から紹介します。

裁判員制度とは

皆様,こんにちは。
私は,広島地方検察庁検事正の坂井と申します。
今日は,皆様に,裁判員制度について,分かりやすくお話したいと思います。
どうぞよろしくお願いいたします。

裁判員制度導入の意義

 裁判員制度の導入の意義は,どういうことかと申しますと。
「より身近で,速くて,頼りがいのある司法」を構築することにあります。つまり,ユーザーである国民の皆様の立場から,ユーザーである皆様の視点に立ち,司法をもっともっと身近なものにする,ということなのです。
そして,「迅速で,分かりやすい裁判」が実現されますし,国民の皆様が裁判に参加されることにより,裁判に国民の健全な良識や感覚が反映され,「国民に支えられた裁判が実現」することになります。
また,副次的ではありますが,治安はもはや官側の取組だけでは支えられません。
国民の司法参加は,治安を回復し,「治安の良い社会を実現」することが期待されているのです。

制度に対する特別世論調査の要旨

これは,内閣府が平成19年2月に発表した「裁判員制度に関する特別世論調査」の結果を,グラフにしたものです。
このように,「裁判員制度の認知度」は,平成17年2月と平成18年12月の調査結果を比べますと,「ある程度知っている」を含めた「知っている」の割合は,約70%から約80%へと約10%増加しており,この制度の認知度が除々に上がっているのがお分かりいただけると思います。
次に,刑事裁判への参加意識を見てみますと。

制度に対する特別世論調査の要旨-2

この2つのグラフは,刑事裁判に参加することが「義務である」という要素が新たに加わっており,単純に比較することはできませんので,右側のグラフを見てみますと, 「あまり参加したくないが,義務であるなら参加せざるをえない」が約半数を占めております。
これを,「参加してもよい」と捉えるのか,「参加したくない」と捉えるのかによって,国民の皆様の刑事裁判への参加意識が前向きであるかどうかの評価が異なってくるわけですが,いずれにしても,「義務であっても参加したくない」又は「わからない」の消極派を含めて,私たちは,今後,裁判員制度の中身を幅広く1人でも多くの国民の皆様方へお伝えしていかなければならないと考えております。
次に,このような参加意識の中で刑事裁判に参加する場合に不安に感じる点を見てみますと。

制度に対する特別世論調査の要旨-3

このグラフを見てみますと,国民の皆様が刑事裁判に参加するに当たって,様々な不安や負担を感じていらっしゃることが分かります。
これらの不安や負担を少しでも軽減するため,これらの不安要因等について,私の考えるところをお話してみたいと思います。
裁判員制度は,これまでプロの裁判官だけで行っていた裁判に,国民を参加させようとする制度ですから,国民にとって負担を掛けることは間違いありません。
しかし,よくよく考えてみますと,日本の国民は,お上がやってくれるという意識が非常に強いわけで,裁判員制度がうまく機能すれば,この国民意識をドラマチックに変える可能性を秘めている制度であると,言えると思います。裁判員制度が定着すれば,きっと良い司法・社会になると期待しています。

不安要因と裁判員制度など

国民の皆様が感じていらっしゃる不安要因等と裁判員制度との関係等について,説明しますと。
まず,「人を裁くことに対する不安」については,被告人や被害者らの一生を左右する有罪・無罪や刑の内容まで決めることになるのですから,その責任は,決して軽いものでないことは事実間違いありません。
しかし,裁判員一人で裁くのではありません。他の裁判員5名と法律のプロである裁判官3名が十分な協議を尽くして裁くのですから,その責任を一人一人が分散できるものと考えられます。
次に,「冷静な判断ができない不安」については,検察官は,専門用語を避け,分かりやすい言葉を遣い,また,スライドなどを使ったビジュアルな方法で主張しますので,良く見て聴いていただければお分かりになれると思います。
また,検察官等が示した証拠から有罪・無罪を認定することは,法律家にしかできないというものではなく,人が生活をする中で,日々行っていることなのです。
次に,「裁判の仕組みが分からない」については,裁判員だけで裁判を行うのではなく,法律のプロと一緒に裁判を行います。法律の知識や裁判手続の知識は,裁判官が丁寧に説明してくれますので安心してください。
次に,「逆恨みによる身の安全」については,裁判員の氏名や住所は一切公表されないのはもちろん,評議における裁判員の意見は,一切公開されることありません。暴力団がかかわった組織的な犯罪には裁判員を入れないことができますし,被告人関係者らからの裁判員に対する威迫行為に対しては処罰することになっているなど,裁判員を法律が保護することになっており,ご安心ください。
次に,「守秘義務に対する不安」については,裁判員が自らの逆恨みを避けるためにも守秘義務は守っていただたいのです。また,この評議における守秘義務を守ることによって,自由にどんなことでも言うことができるのです。

裁判員選任手続きの流れ

さて,どうやって裁判員が選ばれるのでしょうか。
まず,前年の12月ころに,翌年1年間に必要な数の裁判員候補者を選挙人名簿の中からくじで選び,「裁判員候補者名簿」を作成します。選ばれた裁判員候補者には,このことが通知されます。
次に,一つの事件が裁判所に係属すると,裁判日が決められ,事件ごとに「裁判員候補者名簿」の中から,50人から100人の裁判員候補者をくじで選びます。
これは,裁判日の原則として6週間前ころに,くじで選ばれた裁判員候補者に,事件名と当該裁判日等が記載された呼出状が送付されます。
そして,裁判初日の午前中,裁判所は,辞退事由に該当するか微妙な裁判員候補者と面談し,辞退が認められた方々を除いて,最終的に6人の裁判員と,事件によっては2人程度の補充裁判員をくじで選ぶことになります。
そして,午後から裁判員裁判が始まることになるのです。
このように,休暇を取りやすくするため,仕事の日程調整に必要な期間を設けて,前もってお知らせするなど,裁判員として参加しやすい手続を採ることにしております。

裁判員が参加する審理に掛かる日数

裁判員が参加する公判の審理にどのくらいの日数がかかるかと申しますと。
これまでの審理は,審理1回当たり,30分とか60分,長くてもせいぜい半日を充て,多くの事件は,1月に1回のペースで行ってきました。国民の皆様からすると,これが遅いと印象付けていたのです。
裁判員裁判では,「公判前整理手続」の制度を用いて,あらかじめ証拠を検討して争点を分かりやすく整理し,審理計画を立てた上で,裁判日やその期間を決定し,連日的に開廷することになっています。
このように審理を無駄なく,集中的に行うことになりますので,裁判員裁判の審理日数は,3日以内で終わるのが約7割,更に5日以内に終わるものも含めると約9割になると,試算されているのです。

裁判員裁判の対象となる事件

裁判員裁判の対象となる重大な刑事事件は,刑の上限に死刑又は無期懲役が規定されている殺人,強盗致死などです。
1年間の対象事件の件数は,広島県で平均64件になると予想されており,この件数は,広島地裁に係属する全刑事訴訟事件の約3%に過ぎません。
ちなみに,全国の対象事件の件数は,約3,500~4,000件となることが予想されています。
また,一つの事件につき有権者の中から裁判員候補者として50人から100人が選ばれるとすると,1年間に裁判員候補者として選ばれる確率は,広島県が約350人から700人に1人,全国では,約290人から570人に1人と試算されています。
さらに,1年間に裁判員として選ばれる確率は,広島県が約4,500人に1人,全国では,約3,600人に1人と試算されています。

裁判員裁判の手続き

裁判員裁判の手続を,おおまかに説明しますと,このように進みます。
裁判所に一つの事件が係属すると「公判前整理手続」により,あらかじめ争点の整理等を行った後,裁判所は,「裁判員選任手続」によって裁判員を選びます。
裁判員は,「起訴状の朗読」から「論告・弁論」に至る公判審理において,検察官・弁護人が主張等しようとすることや被告人・証人の述べることなどを見て聴くことになります。
そして,「評議・評決」において,被告人の有罪・無罪や刑の内容を決定し,裁判長の「判決宣告」に同席することになるのです。

裁判員の仕事

裁判員の仕事は,被告人の有罪・無罪を決める「事実認定」と,有罪の場合はどのような刑がふさわしいか「量刑判断」をすることです。
「事実認定」は,実は,国民の皆さんが日常的に行っている判断と本質的には同じことなのです。
例えば,母親が,いたずらをしたのは兄弟のどちらか,を判断するとき,そのいたずらのやり方,いたずらをしたとき兄弟がどこに居たのか,いたずらをする理由がどちらにあったのかを,これまでの経験や常識に照らし,また,具体的な根拠に基づいて判断して,叱り,仕付けていることを思い出していただければ,お分かりになると思います。
法律の知識は必要ありません。法律については,裁判官が分かりやすく説明しますし,検察官や弁護士も,専門用語を避け,分かりやすい言葉を遣い,ビジュアルな方法で主張し,証拠を示すよう創意工夫しますので,心配はいりません。
また,「量刑判断」は,検察官と弁護人が,被告人に有利な点や不利な点について,意見を述べるのを手掛かりとして,それに過去の同じ様な裁判資料とを組み合わせるなどして決めることになります。
そのためには,他の裁判員5人とプロの裁判官3人と一緒になって「公判の審理をよく見て聴く」ことです。
評議では,裁判員1人で悩むことは決してありません。他の裁判員や裁判官を信用して「遠慮なく自分の意見を述べる」ことです。
評議室には,選ばれた裁判員と裁判官しか居ません。守秘義務は,このように自由な意見を述べることができるようにするためのものですし,また,被告人ら関係者から,自らが逆恨みを受けないことにつながるものなのです。

裁判員制度啓発広報

裁判員制度の国民の皆様に対する啓発広報は,法務省・検察庁などが国家機関等に対し協力をお願いし,今や,国家的,全国的な規模で取り組まれております。
ここ広島県においても,広島の裁判所,検察庁,弁護士会で組織する「広島法曹三者裁判員制度広報推進協議会」では,これまで公開模擬裁判やフォーラムなど様々な形で裁判員制度の啓発広報に努めてまいりました。
そして,裁判員に選ばれる過半数の方々が何らかの仕事に従事されていることに着目し,本年2月から県内の企業等を訪問して,経営者の方々に対し,裁判員に選ばれた社員に「よし,行ってこい。」と温かく送り出すような社内環境,特に有給の裁判員休暇制度の創設をお願いし,着実にその成果を上げてきておりますので,皆様方のご家族又は従業員の皆様が裁判員に選ばれましたら,温かく送り出していただけるものと期待しております。

裁判員制度は平成21年5月までにスタート

「より身近で,速くて,頼りがいのある司法」を目指す裁判員制度の意義の重要性を十分ご理解いただいたと思います。
裁判員制度がうまく機能すれば,自由で活力のある社会が実現でき,また,同じ社会に生きる人間として他人ごととせず,問題を共有して考えることのできる国民意識が定着すれば,きっとより良い司法・社会になるものと期待しています。
最後に,裁判員として参加していただくよう重ねてお願いし,私の説明を終わります。
 ありがとうございました。

Posted by 事務局 at 12時30分

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