卓話時間
第1287例会
2006年04月10日 (月曜日)
- タイトル :
- 予防にまさる救援なし
- 卓話者 :
- 日本赤十字社広島県支部組織振興係長 角田篤彦(カクタアツヒコ)氏
平成16(2004)年12月26日、22万人の死者と行方不明者、200万を越える人々に甚大な被害をもたらした、インドネシア・スマトラ島沖地震・津波災害が発生しました。日本赤十字社は、災害発生直後から被災地に緊急対応チームを派遣し、その救援活動に取り組んできました。
こうした大規模な災害では、すぐさま沢山の医療チームが被災地に集結し、大規模な救援活動が展開される、というのが一般にイメージされる国際救援の姿ではないでしょうか?しかし、救援活動というのは医療のほかにも食料などの救援物資の配布など実に様々な活動があり、専門家が必要です。たとえば、被災地で相互に連絡を取り合うための通信や、衛生的な水を確保するための給水、それらの資機材や救援物資を調達・輸送するロジスティクスなどがそうです。
日本赤十字社(日赤)の医療チームは、スマトラ島北西部のムラボという村で被災者への医療救援活動や、現地の病院に対する支援を行っていましたが、私は一人日赤チームから離れ、スマトラ島最大の都市メダンで物資の調達や輸送などの後方支援を担当していました。被災地では津波による直接の負傷者以外にも、傷口から破傷風に感染し、死に至るケースが多くみられました。そのため、破傷風ワクチンの確保が急務となり、メダンの主だった薬局を廻ってはワクチンを購入し現地へ輸送しました。このほかにもレントゲンのフィルムや現像液など、日本ではどこでも手に入るようなものが、被災地では一切入手できなかったのです。私のような後方支援では、実際に現地を見るということが大変重要です。チームからの様々な要求に応えるためにも、現地で何が足らないのか、輸送したものをどのように設置・活用するのかなどがイメージできなければ良い後方支援にはなりません。
一方、被災状況の調査が進むにつれ、日赤チームはその活動の範囲を南の離島、シムルー島に拡げることを決定しました。私はシムルー島の調査から帰った同僚から、驚くべき報告を聞いたのです。この島には約7万人の住民がいましたが、殆どの家屋が地震で倒壊したり津波に飲まれたりしているのに、亡くなった人は7人だったというのです。スマトラ島でもっとも被害の大きかったバンダ・アチェでは住民の多くが亡くなっているというのに何故なのか。答えは住民の言葉にありました。「ここでは100年ほど前に大きな地震と津波が起こった。それ以来、島では地震が起こったらすぐに高台に避難するよう言い伝えがあり、今でも住民はそれを忠実に守っている。」というのです。
地震や津波などの自然災害は、私たちが地球上に住む限り避けることはできません。しかし、そのときにどのように行動するべきか、「知っていること」そして「実行すること」が生死を分けることになるのです。~予防にまさる救援なし~普段から災害に対する知識を広め、非難訓練などの災害対策などを十分にしておくことが、多くの生命を救うのです。これはどんな先進の救援活動よりも有効であり、大切なのだと思います。