卓話時間
第1561例会
2012年10月29日 (月曜日)
- タイトル :
- 新会員卓話「癌の手術について」
- 卓話者 :
- 石田照佳君
私は、広島赤十字・原爆病院外科に赴任して18年が経ち、その間、がん患者さんを中心に、約3500人の患者さんの手術や抗がん剤の治療に携わってきました。本日は、がんの手術について述べさせていただきます。
現在、日本人は2人に1人が、がんに罹患し、がんは「他人事」ではない時代です。がん罹患率は老化とともに高くなり、日本はトップクラスの「がん天国」になりました。また、がんで亡くなる方は、日本人の3人に1人です。特に、胃がん、子宮頸がん、肝がんは感染型がん(アジア型)とも呼ばれ、衛生環境の改善などで減少傾向であるのに比べ、肺がん、大腸がん、乳がん、膵がん、前立腺がんは生活習慣型がん(欧米型)と呼ばれ、増加傾向です。これらは、食生活、肥満、ストレス、喫煙、飲酒などにより、がん罹患のリスクが増加すると考えられています。
がんの治療法は、大きく局所療法と全身療法に分類されます。前者は局所に限局したがんに対する手術や放射線治療で、後者は進行・転移したがんに対する化学療法(抗がん剤、ホルモン剤など)や免疫療法などです。早期がんの場合は、局所療法のみで治療が可能ですが、進行がんでは再発・転移の可能性が髙いので局所療法と全身療法を併用した集学的治療が行われます。また、以前は「がん治療=なんでも手術」の時代でしたが、最近は、頭頸部がん、子宮頸がん、前立腺がんなどは放射線治療を行い、手術と同じ治癒率となりました。しかし、化学療法は、血液がん以外ではまだ治癒は期待できていません。特に、乳がん、胃がん、大腸がん、肺がんなどでは延命や症状緩和の効果がしか期待されず、また、肝がん、膵がんなどではほとんど効果も期待できない状況です。
一方、がんに対する手術療法は、大きく切除する定型手術(原発巣の切除と領域リンパ節の郭清)が主流で、比較的早期で完全切除された症例では治療効果が顕著です。しかし、リンパ節転移がない早期がんでは、機能温存を目指した縮小手術や内視鏡手術などの非定型手術が行われ、定型手術と同等の治癒率が得られます。また、がんの局所浸潤や広範囲のリンパ節転移がみられるような進行がんでは、完全切除されても再発・転移の可能性が髙いので術後補助化学療法を併用しますが、生存率の上乗せ効果は5~10%しかなく、治療成績向上には限界があります。特に、肺がん、肝がん、膵がんは術後5年以上の長期生存者が少ない状況です。
よって、がんの治癒率の向上や機能温存を目指すには、がんの早期発見・診断と早期治療・手術が必要で、そのためには、40歳を過ぎれば毎年人間ドッグ、特に、急性期総合病院の検査と同じレベルのがん検診を受けることが重要です。