卓話時間
第1696例会
2016年02月08日 (月曜日)
- タイトル :
- ゲスト卓話
「中国地方の最近の経済情勢」
- 卓話者 :
- 中国財務局 局長 佐藤秀明 氏
(中国地方の最近の経済情勢)
中国地方の景況判断BSIをみると、平成27年10~12月期は6.2%ポイントの「上昇」超となっており、「上昇」超が拡大しています。平成25年10~12月期は、14.2%ポイントと大幅な「上昇」超となっていますが、これは消費税率引上げによる駆け込み需要によるものです。このようなものを除きますと、過去、「上昇」超になったのは、平成17年、18年頃のいざなみ景気の時期であり、今は、いざなみ景気に相当するような景況感となっています。
では、中国地方の最近の経済情勢を需要項目でみると、GDPで約6割を占めている個人消費は、緩やかに回復しつつあります。住宅建設は前年を上回っています。設備投資も前年度の計画を上回る見込みです。輸出は前年を下回っていますが、輸入はさらに下回っていますので、純輸出ベースでみると、プラスになっています。以上のように、需要項目では、特に悪い状況はみられません。
景気を反映する生産活動をみると、一部に弱さがみられるものの、引き続き持ち直しています。特に鉄鋼では、中国の安価な鋼材が市場に出ていること、東南アジア・韓国の輸出が伸びない、アメリカのシェールガス向けの輸出が伸びないこともあり、良くない状況です。しかし、自動車が鉄鋼をカバーし、中国地方の生産活動を牽引しています。企業収益は、個別要因もあって、減益見込みとなっています。雇用情勢は着実に改善しており、人手不足感が広がっています。
このように、中国地方の経済は、緩やかに回復しつつあります。先行きについては、雇用・所得環境の改善が続くなかで、各種政策効果に支えられ、緩やかに回復していくことが期待されます。ただし、景気を下押しするリスクとなる中国を始めとするアジア新興国等海外の景気の動向について注視する必要があります。
(世界経済)
IMFによる世界経済見通しによると、世界計の2016年対前年比GDP成長率は、15年10月時点の3.6%から16年1月時点は3.4%に下がっており、減速見通しとなっています。先進国、新興国ともに減速見通しです。
中国については、15年10月時点と16年1月時点の対前年比GDP成長率はあまり変わっていませんが、2015年6.9%から2016年6.3%、2017年6.0%と減速見通しです。中国はリーマンショック後に4兆元の公共投資を行っており、その影響により、過剰設備・過剰在庫といった問題を抱えています。このため、製造業が良くなく、中国の政府高官も経済の構造改革には5年かかるとみています。IMFが15年10月時点と16年1月時点の対前年比GDP成長率を変えていないのは、サービスセクターである小売が良いためです。
米国経済は、全体として引き続き力強いものの、ドル高が製造業に重しとなっているほか、原油価格の下落は鉱業関係の設備投資削減につながるため、経済見通しは下方修正となっています。
中東は、原油価格の下落や地政学的リスク及び国内紛争が見通しの重しとなり、下方修正となっています。
(原油価格とサウジアラビアの財政・経済状況)
サウジアラビアの財政収支を均衡させる原油価格は約106ドルであり、経常収支を均衡させる原油価格は約71ドルです。今日現在の原油価格は34ドルであり、かなり落ち込んでいます。下落した理由は、中国を始めとする需要が増えていないことや、供給面が重しとなっており、2015年12月4日OPEC総会での減産見送り、2016年1月16日の対イラン制裁の解除など、原油価格が上がる要因は見当たりません。
サウジアラビアは、人口の半分が30歳代未満で、年齢の中心は28歳という若い国です。財政状況は、歳入の8割以上を石油収入に依存し、個人所得税、付加価値税はありません。また、法人税も外国企業に対するもののみです。しかし、原油価格の低迷を受け、石油収入は、2014年2466億ドルが2015年1200億ドルに半減する見込みです。一方、歳出は、2011年から2014年にかけ約4割増えています。2015年の予算をみましても、国防費と教育費で6割を超え、イエメンの軍事介入により、国防費が更に増加し、財政赤字が拡大し、経常収支、国際収支も赤字に転ずる見込みとなっており、昨年は8年ぶりの国債の発行や外貨準備の取り崩しで対応しています。また、料金の引上げや消費税の導入を検討していると聞いています。
IMFは、5年程度で外貨準備資産が無くなるのではないかと試算しています。サウジアラビアの経済状況は世界経済に大きな影響を与えることから、今後、注視していく必要があるものと考えています。