卓話時間
第1197例会
2004年03月15日 (月曜日)
- タイトル :
- PPKで元気よく
- 卓話者 :
- 広島大学医学部産婦人科教授 大濱 紘三氏
わが国の平均寿命(2000年)は男77.64歳、女84.62歳で世界最長ですが、健康寿命はそれよりも6~7歳ほど短くなっています。そのため「健康で長生き」が国民共通の願いになっています。女性が男性に比して長寿なのは世界共通の現象で、これは男女の生物学的特性の違いによるものと理解されています。そのため男性が長寿を望むのであれば女性の特性を理解し、それを参考にした生活習慣を送るのがよいと考えられます。
しかしながら、女性が長寿である最大の理由は性染色体構成の違いであり、これはどうしようもありません。具体的に言えば、女性はX染色体(重要な遺伝子が多く乗っている)を2本持つのに対し、男性はX染色体を1本しか持っていません。そのかわり男性はY染色体を1本持っていますが、Y染色体には男性決定遺伝子以外には重要な遺伝子はほとんどありません。ヒトを含む多くの動物は原型は女(雌)で、男(雄)は有性生殖による種の保存のために無理矢理させられた姿と理解することができます。男性を決定するのはY染色体上の遺伝子ですが、男にするのは男性ホルモンです。男児(胎児)では性腺から男性ホルモンが産生され、これが男性型性器を形成し、脳を男性型にします。一方、男性ホルモンを欠く胎児(女児)では、身体的にも精神的にもヒト本来の姿である女性型になります。
卵巣で産生される女性ホルモン(エストロゲン)は、月経や妊娠に関係するだけでなく、女性の全身に作用して健康維持や機能調整に重要な役割を果たしています。そのため閉経になるとエストロゲンの不足による症状(更年期障害、皮膚・粘膜の萎縮、骨量減少、高脂血症など)が出現して来ますので、少量のエストロゲンを補充して、症状を軽減したり老化を遅らせる試みがなされています。この女性ホルモン補充療法には痴呆防止効果もあり、PPK(Pin Pin Korori)をもたらすものとして注目されています。一方中高年男性に対する男性ホルモン補充療法は、うつ傾向などの男性更年期障害に有効で、さらに筋力増強、骨量増加、心機能亢進などの効果が見られますが、前立腺疾患の増加が懸念されています。
最近はストレスによる病気が増加していますが、一般には女性はストレスに強いといわれています。ストレス対策としては自律神経を副交感神経優位にすることが大切で、脳内のβ-エンドルフィンやセロトニンなどの分泌を高めるために、おおらかな思考法を取り入れ、楽しい時間(趣味、散歩、音楽、楽しい会話など)を持つようにします。一方アドレナリンやドーパミンの分泌を抑えるなどして、交感神経優位にならないよう気を付けて下さい。ヒトは20歳を過ぎると毎日約10万個もの神経細胞が死んで行きますが、脳には140億個の神経細胞がありますので、70歳になっても十分な神経細胞が生きています。しかし、ヒトが一生に使う神経細胞は全体の10%程度と言われていますので、常に刺激を与えて有効利用することが大切で、これは脳の老化防止にも効果的です。
自己を守る力である免疫力は女性の方が強く、そのため感染症(細菌、ウィルス)や癌は男性に多く見られます。日本人の死亡原因の30%が癌ですが、男性は女性の1.5倍にも達しています。特に喉頭癌、食道癌、肝臓癌、膀胱癌、腎臓癌は5倍以上ですし、肺癌も3.5倍になっています。がんの予防は生活習慣(喫煙、食事、アルコール、ストレス、運動など)の見直しが重要ですが、定期的な検診も不可欠です。
広島中央ロータリークラブの皆様がPPKの理念を理解され、時には自分の生活習慣を点検され、いつまでも健康で活躍されることを願っております。