- 本日のプログラム
- ゲスト卓話
「船の行き交う街をめざして」 - 卓話者
- 里山あーと村事務局代表 氏原 睦子氏
- 担当
- プログラム委員会
- 会長時間
- ・広島14RC合同懇親ゴルフ大会ご協力御礼
・永田富惠会員退会報告並びに退会挨拶文書代読披露 - 幹事報告
- ・BOX配布物の確認
(1)臨時理事役員会議事録,次年度理事役員会議事録
・回覧
ガバナーより特別シンポジウム「人・環境・未来 つながりのある社会を目指して」
(日本造営建設業協会中国総支部)の参加依頼がガバナー補佐を通じて届いております。詳細は回覧いたしますので多数ご参加下さい。 - 委員会報告等
- ・出 席 : 出席報告
・R財団 : 愛のコイン箱(ポリオ寄付指定)
卓話時間
ゲスト卓話
「船の行き交う街をめざして」
里山あーと村事務局代表 氏原 睦子氏
水辺からまちをかえる
雁木タクシー NPO法人雁木組 氏原睦子
水の都ひろしま。まちの中心部には旧太田川(本川)、元安川、天満川、京橋川、猿猴(えんこう)川、太田川放水路の6つの河川が流れ、デルタのまちを形づくっています。私たちは、その水と緑にあふれるまちで、川の水上タクシー「雁木タクシー」を運航しています。「街とまちを結ぶ」というキャッチフレーズは、まちのいたるところにある階段状の護岸である約400ヶ所の「雁木」を、のりばとしているからです。
昔の絵図や写真をご覧いただくと、現在の川と大きくは変わっていないことがおわかりいただけるかと思います。築城以来の護岸づくりそのものが、広島のまちづくりであったことを物語っています。その築堤にあたって、護岸の一部に造られてきたのが「雁木」です。雁木とは階段状の護岸をいい、昭和30年代まで木材などの物資の荷下ろしの場などに使われていました。1808年に描かれた「江山一覧図」には、多くの雁木と舟が描かれ、舟運で栄えた広島のかつての暮らしぶりをうかがい知ることができます。幅が広く、公共的な雁木もあれば、個人宅にひとつずつ造られた、私的な雁木もあります。広島は、瀬戸内海の影響で干満差が大きく、大潮では4mもの差を生じます。
雁木は、こうした干満の大きなまちならではのオ雁木は、こうした干満の大きなまちならではのオリジナルの構造物として発達してきました。
私たちは「雁木」に人と川の新しい文化を見出して広島のまちづくりにつなげようと、雁木にこだわる活動を実施しています。現在、雁木タクシーは7人乗りの小型ボート2艇で運航。のりばは50ヶ所強。いずれののりばも市民のニーズに応じて利用実績をつくってきたもので、平成16年秋からこれまでの乗船者は約2万人です。
【できることから始めた雁木タクシー】
広島における水上交通実現にむけては、行政、経済界、市民による研究会、検討会が幾度も実施され、様々な実験的取組みも実施されてきました。それだけ、川がまちづくりに魅力的な要素をもっているといえるでしょう。その課題としてあげられるのは次の2つ。
①干満差が大きく(1日平均最大で4m弱)、満潮時間は船が橋にぶつかり、干潮時は底をつく。
②水上交通といえるほど桟橋の数がない
課題検討の結果はどちらも、インフラ整備による実現を求める内容でした。そこで私たちは、今ある素材を生かしできることからはじめることとしました。
「タクシー」の名にこだわったのは、利便性を追求する公共交通ではなく(便利に越したことはないが)、また観光に特化した遊覧船をめざすのでもなく、「ハイ、タクシー」と手をあげれば気軽に船に乗ることができる、粋な暮らし方そのものを、まちの魅力として来訪者にも楽しんでいただきたい、という想いを込めたからです。自分たち自身が初めて船で広島をみたときの感動を、1人でも多くの市民に伝えて、まずは市民の意識を川に呼び戻すことからはじめよう、という、畑を耕すような気の長い取組みです。川から街をみてもらえば、必ず市民の気持ちが動くという自負が私たちにはあります。そのために様々な企画を打ち出し、一方で地道な運航を続けてきたその繰り返しが、2万人という数字に反映されています。
【安全運航を支える仕組みづくり】
(1)運航のルールづくり
雁木タクシーは「人の輸送をする内航不定期航路事業」の届出を行い、NPOが事業主体となって運航しています。運航にあたって最重視しているのが「安全」です。雁木利用にあたっては、開始当初から安全性を疑問視する声がありましたが、私たちは「桟橋こそが安全」という固定概念に対し、川では雁木が安全な施設であることを、安全運航の実績をもって証明することとしました。脈々と受け継がれてきた雁木を利用していると、いかに雁木が干潮河川において理にかなった構造物であるかを実感します。私たちは、雁木を利用することで安全のノウハウや知恵を先人から教わっているともいえます。これらのノウハウを蓄積したものが、私たちがつくりあげた運航ルールです。
(2)潮汐の変化をデータベースにした「水辺検索システム」
広島の河川は航路が指定されていません。また、海でいう海図のような情報が、一般に公開されていません。そこでまず私たちは、河床の状況と水深調査を実施することによって、航路を決定する作業を実施しました。続いて主要な雁木の満潮時・干潮時の水深を測るほか、雁木の形状や水深、陸側のアプローチなど、乗降りの場として物理的な調査を実施し、データを蓄積しました。
これらのデータをもとに、利用情報を市民に提供するシステムづくりを「マイクロソフトNPO支援プログラム」により実現。時々刻々と変化する潮汐(満潮・干潮)を調和定数からリアルタイムに求めるシステムを開発するにいたりました。特定の日付の各雁木の利用時間を検索web上で提供することにより、雁木組の安全運航を支えるシステムとして日々活用されているほか、誰もが雁木の利用情報を気軽に検索できるようになり多くの市民、来訪者、学校が利用しています。さらに、構築した理論潮位を実績潮位で補正する機能も組み込み、システムの制度をさらに高めています。
(3)プロボランティアによる運航のサポート
運航には多くのボランティアが携わっていますが、全員がプロ意識をもって臨んでいます。現場の陸上ボランティアスタッフの主な役割は2つ。安全な乗降りのフォローと、安全のための雁木掃除です。スタッフは定期的に情報交換をし、法令厳守と具体的なケーススタディにより安全確認を徹底しています。
【水辺の魅力に光をあて、ネットワークする】
広島の水辺には原爆ドームや縮景園などの観光施設や、国際会議場などの集客施設が多くあります。これらの施設と主要駅、あるいは施設間を船で結ぶコースを企画し、商品化。コースの途中にある、埋もれていた資源に光をあてることで、市民にも来訪者にも、新しい発見を楽しんでいただいています。
<縮景園クルーズ>
平和公園から縮景園上流の雁木を結ぶ便。名勝縮景園にある雁木は、現在閉鎖中で船を着岸することができないが、船上ガイドさんと縮景園のガイドさんが、お客さまを橋渡しする形で、園の裏側からの入場を可能にし、実現したツアー。
<マツダズームズームスタジアム便>
2009年春にオープンしたばかりの新球場へ、平和公園から直行する企画便。お客様もスタッフもカープ一色で街なかを走り抜ける、賑やかな便。
<水辺のオープンカフェ便>
河川利用の特例措置として実験的に営業をしている水辺のオープンカフェ(京橋川)と平和公園を結ぶ約30分のコース。
【まちへのはたらきかけ】
広島の水辺は市民によるイベントが活発です。イベント主催者との共同企画により特別運航をして賑わいの相乗効果をもたらしたり、複数の会場をネットワークするなど、まちづくりを目的とするNPO法人ならではの幅広い動きも、雁木組の自慢です。
雁木組が自らイベントを主催することも。太田川でしじみ漁を営む漁協組合と連携し、太田川産しじみのブランド化の協力をしている。一流のシェフを招いてのPRやしじみの勉強会、稚貝の放流など、女性の多い雁木組ならではの企画です。
「雁木クリスマス&水辺JAZZ」は、京橋を挟んだ両岸の地域と水辺に立地する企業によびかけて実施している冬のイベントで、日頃は橋を足早に通り過ぎるサラリーマンに、しばし水辺で足をとめてもらおうと、平日の夜に実施しています。また、雁木を地域の皆さんとライトアップすることによって、昼間は気づきにくい雁木の存在をアピールし、地域の財産としての認識を高めています。
水辺にあるほとんどの町内会の地先には雁木があります。地域の人たちに雁木と雁木タクシーに愛着をもっていただけるよう、地域への働きかけは今後も続けていきたいと思います。
【使いながら残す- 雁木の歴史性調査】
雁木組では、雁木の歴史的価値を確認し保存につなげるプロジェクトを平成17年から実施しています。
6本の河川のうち近年の高潮対策事業が施されていない京橋川右岸上・中流域(工兵橋から稲荷橋の約2.6km)には見ごたえのある護岸および雁木が連続しています。中でも栄橋から京橋にかけては裏木戸跡や美しい切り込み剥ぎの護岸などが残っています。この区間について、築造年代の特定と、保存に値する文化財的価値を見出すための現状調査を行いました。まず着眼したのは、雁木およびその周辺の護岸の石積みの特徴(練積み・空積み、加工の程度、積み方など)です。結果、護岸は区間ごと、おそらくかつての屋敷単位で多様な形式であることがわかり、それらをグループ化して相対的な年代区分を確定しました。(調査協力:三浦正幸氏(広島大学教授)
調査報告:川后のぞみ氏(広島大学/NPO法人雁木組)ほか)
その後、文献調査、地域へのヒアリング調査を通じて、技術調査の裏づけを行い、この区間の雁木は明治中期頃に護岸とともに築造されたことが明らかになりました。(調査協力:本田美和子氏((財)広島市文化財団広島城)ほか)
これまで河川の雁木群について内外に知られることはあまりありませんでしたが、雁木タクシーが船着場とし再活用をはじめたことと、この調査結果が裏づけとなって、平成19年度土木学会の「選奨土木遺産」((社)土木学会)に選定されるにいたりました。調査活動は、現在も進行中で、その後、「歴史クルーズ」として、雁木タクシーで水辺の歴史を紹介する企画が実現したり、地域の皆さんと一緒に石垣の草を取り除いて保全する活動へと展開しています。
また、平成20年には、伝統的工法を受け継ぐ石工さんと、崩れた歴史的護岸を修復するシビックトラストを実施しました。
都市の中で奇跡的に残り、いまでも現役の護岸として活躍する雁木群。今後も本来の用途である「船着場」として、活用しながら地域の人たちと一緒に大切に残していきたいと考えています。
【物語を綴るサポーターとしての雁木タクシー】
雁木タクシーの定着とともに、移動手段以外の利用が市民の皆さんによって提案されはじめています。川沿いの病院に入院する母親に、船の上から歌とプラカードで誕生日のお祝いをする若い兄弟たち。結婚式で花嫁と花婿が船で登場。修学旅行で広島を訪れる小中学校の「とうろう流し」のお手伝い(船でとうろうを回収)など。運航のしくみを構築したことで、船は水辺のさまざまなニーズを実現する道具として、市民の役に立ちはじめたことは、嬉しい成果です。今後どのような物語を綴るお手伝いができるのか、とても楽しみです。
【環境に優しい雁木タクシーに】
今後の展開ですが、環境に優しい船を導入するためのプロジェクトを、昨年からスタートさせました。様々な専門分野の方との協働により、水素エンジン社会にむけて段階的に取り組んでいきます。また、企業のCSRとしても、雁木タクシーを使っていただきたいと考えています。たとえば、企業のスポンサードにより1日、広島の子どもたちに環境学習のためのツアーを運航するなど。
ひとりでも多くの子どもたちに、体験をしてもらいたいと思いますので、ぜひ、ご検討いただければと思います。
さいごに、私たちは、広島のまちを水辺から変える、という気概をもって、雁木タクシーを運営しています。いちど、雁木タクシーにご乗船いただきたいと思います。